【五十五話】犯人は全てを知り、被害者は一部を知る
「セイ、情報の漏洩は気にしないでね。 私、当事者だし」
明るく柔やかに言っては見たが、心外そうに睨まれる。
「俺は情報の漏洩防止に囚われて、大事を逃したりするつもりはない」
ですよねー(汗)
分かります。
こうして護衛対象と飲み明かしてる(水だけど)時点で、融通が利くって知ってますよ?
正直、影(もちろん複数いるのが大前提だ)が、洗い出しをして、シロとしたものを、私が再度洗い出す程無駄な事はない。
つまりは情報を共有させて欲しいのだ。
事件解決の為に。
明日になれば、ダンスパーティーまで十二日。
私と第二王子様の関係が、衆人環視の元、公にされる。
犯人に取っては、その時、隣に立っているのは、自分であって欲しいということよね?
健気なのか狂気なのか両方なのか。
恋って凄いのね。
「どうしても動くというなら、俺が指示した通りに動いて貰う。それ以外は不可だ」
キター。
譲歩案。
私だって、事件の尻尾すら掴んでないのに、第二王子様に惚れている令嬢全員に会おうなんて思ってないわよ。
時間は少ないし、出来る事は限られている。
要領よく行きたい訳よ。
ヒントよヒント。
ヒントが欲しかった。
「まず、不透明な部分をクリアーにする為に、人に会ってもらう」
うんうん。なるほど。何人かにカマを掛けるんですね。
分かります。
「そこでこちらの用意した台詞をそのまま言ってもらう」
お安い御用よ。
それによって相手のボロを拾うって事でしょ?
得意分野。
いけるいける。
「オリジナルは挟むなよ?」
「……なんでよ?」
「感づかれるからダロ」
「………なるほど」
私、台本通りにちゃんと言うわ。
なんなら今から暗記する?
「四人の人間に会ってもらう。始終友好的にすること。お前の方が身分が低い場合は、完璧な礼儀作法で失礼のないように」
「………」
私の方が身分が低い……。
何度も言うか我が家は貴族界ではトップの公爵家だ。
自分より身分の低い人間は五万といるが、高いとなると数えるくらいしかいない。
それだけで、大分絞れるわね……。
口に出せるくらいしかいない………。
王族と。
第一第二第三公爵家と。
私は静かに考え込む。
その中で、王立学園に通う御令嬢となると……。
大人しそうな、品の良い、第三公爵家の御令嬢を思い出していた。
それこそ、数えるくらいしか口をきいたことがないのだが。
えー。
彼女?
いや、まあ、決定とかじゃないけど……。
四人か……。
つまり影は四人に絞っているということ?
私はこの四人に会わせて貰える。
これって王手じゃないの?
私が必至を掛けさせて貰える?
ちょっと浮かれぎみです。
王手ついでに将棋に例えると、まあ、金銀四枚の中にフェイクがいると。
「オイ、聞いてるのか?」
「? 全然きいてなかったわ?」
セイの額に青筋が立つ。
「明日は予定がないから、一日中寝てろって言ったんだよ」
「???」
一日中って。
随分長い時間ね。
「明後日になっても、目元に隈を付けて青白い顔をしていたら、この話は却下だ。覚悟しておけよ」
「!?!」
嘘!?
寝る。
絶対、寝る。
絶対、隈、治す。
そして食べる。
取り敢えず、パン粥と野菜をペースト状にしたスープから。
血色がよくなるよう努力するわ。
全力宣言よ?
ここで却下されたら、立ち直れないもの。
それにしても、スゴイ交換条件ね?
私の性格を良く熟知しているというか?
上手いこと人を転がすというか……。
私はセイと慌ただしく別れて、ふかふかのベッドに潜り込む。
王宮のベッド凄いな。
なかなか気持ち良いです。
眠れそうですよ?