【五十四話】恋に囚われし者
実際問題。
恋に囚われているのか?
王子妃という立場に囚われているのか?
私は王立学園の面々を思い出す。
主だった貴族の令嬢は通っている筈よ?
第二王子様との接点を考えても、学園は最良の場所だ。
本人同士が直接面識を持つ事が出来る数少ない場なのだから。
学園を卒業すると、完全に社交会へとコミュ二ティの場は移行する。
学園でも社交会でも家の名を背負っている事に変わりはないが、学園の方がよりソフトだ。
分かり易く第二王子様に恋心を掛けていた令嬢の他に、それとなく目で追っていた令嬢はいただろうか?
まあ、いっぱいいる訳だが。
「セイ、同級生でシロが確定していない令嬢って誰なのよ?」
「聞いてどうするんだよ?」
呆れ顔でこちらを見ている。
影っていつ寝るのかしら?
素朴な疑問よね?
「ねえ、二交代制なの?」
じろっと睨まれる。
「口に出した瞬間から、真実になるからな。言葉にはしない」
「………」
つまり影のタイムスケジュールが漏れた瞬間、影ではいられなくなるということ?
まあ、言われてみれば、その通りなのだろうが……。
神出鬼没とか。
音もなくとか。
そういう類いのものが、そういう類いとして機能しなくなると。
「セイは恋をしたことがある?」
「………」
人が人を好きになる。
それ自体は自然な事よね。
誰だって気の合う友達は好きだ。
信頼出来る親族は大切だ。
異性に惹かれるのは、男女とも子孫を残す事が、本能に組み込まれているから。
エストロゲン。
発情ホルモンだ。
猫や犬だけじゃない。
人にだってしっかりと存在する。
その作用によって、人は人に恋をする。
エストロゲンが作用すると、より強い男性を求めるものだ。
寝食に困らない相手。
お金に困らない相手。
第二王子様って打って付けなのでしょうね。
財力的に。
貴族は基本お金持ちなのだけれど。
王族と言えば、更に盤石になる。
人を絶息させてまで、自分の好きな男の人を手に入れる。
これって現実問題、あるのかなー?
どうして?
なぜ?
と思ってしまう。
モンテクリスト伯の婚約者は、モンテクリスト伯を陥れた張本人の男と結婚した。
それって有り得るのかな?
自分の大切な人を、陥れた男は、いわば仇だ。
そんな人間を信用出来る?
看破出来なければ、仇とならない?
分からないのだろうか?
実際問題、私は私を殺しに来た人間が分からない。
そして、知らず知らずに接しているかも知れないのだ。
ならば。
こんな所で、一人部屋に閉じ籠もっている訳にはいかない。
相手は全てを知っている。
私は何も知らない。
騙されるか?
騙されないのか?
試してみたいわね。
私という人間の、人を見抜く目を。
注意深く。
一挙手一投足を捉える為に。