【五十話】影と密談2
仲良き事は良きことかな。
私は二人の主従関係を想像して、ニヤニヤしていました。
王族と影ってきっと長い付き合いなのでしょうね?
陛下以外にも付くのねー。
「お前、いよいよキモチワルイぞ……」
セイに言われて、ユルんでしまう顔に力を入れる。
「そうそう、まあ、私の想像は置いておいて。つまりダンスパーティーまであと十三日しかないのよ? その日までにシンデレラの恋人を探したいの? セイ、協力してよ」
「するわけねーゾ」
セイは苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そんなのお前の贖罪だろ? 俺達の仕事外だ。しかも余計な仕事をするという事は、他の仕事が手薄になる事を意味している。お前の自己満足に付き合ってくれるのは、お前自身だけだ。覚えて置けよ?」
セイは水を飲む為に、口元の覆いを下ろしていたから、よく回る口元が見えた。
贖罪って良く知ってるわね?
「ルーファス様に色々聞いているの?」
「ほぼ、全部聞いている。何故かというと、お前がバカな行動を起こさないようにと、見守る為だ。突飛な行動もルーツが分かれば防止しやすい」
とんだ理論派じゃないの?
頼もしいわね。
「じゃあ、私が何を望んでいるのか分かる?」
「手に取るように」
セイは挑発的な目を向けてくる。
「今すぐにでも、公爵家に帰って、シンデレラの片思いの相手を聞き出したい。その上で、ガラスの靴を渡したい。それが出来なくてじれている」
ヤダ。
ほぼ正解ね。
「でも、影がいるから抜け出せない」
セイは杯を置いてミシェールの瞳を覗き込む。
「俺を利用したいけど、思うように動いてくれない。さて次の一手はどうしよう?」
筒抜けね?
前世の世界だったら心理学者になれるレベルかしら。
「ちょっと、悪意が混じってるわね。八十点よ」
「ほう? 二十点も減点されるとは心外だね」
私は小さく嘆息する。
そこまで知っているなら、隠し事なんてする気もない。
「私だってもうシンデレラを第二王子妃になんて思っていないわ。切り替えの速さを褒めてくれない?」
「この時点でまだそんな世迷い言を言っていたら、殺すレベルだぞ」
怖いわね?
さすが暗殺を司る影。
でも、口が軽いのが玉に瑕かしら?
今ので、状況の一部が読めたわ。
つまりアレね?
セイ、あなたも贖罪の真っ只中なのかしら?
私はガラスの靴に付いては、ルーファスに言ってないわ。
ということは、高い確率で考えられるのは、私が目を覚ました時にしていた会話。
シンデレラとしていた会話をこの影は聞いていた。
そして私が目を覚ましたことを、ルーファスに伝えたのではなくて?
やっぱり、あの時点で影は公爵家をウロウロしていたのね?
それはそうよね。
もう、暗殺は始まっていたのだもの。
でも私の護衛というよりは、飼い葉に混入した薬。
つまり落馬について探っていた。
今とは主目的が違っていたんだ。
そして夜中の二度目の暗殺未遂へと繋がる。
その時、私に影は付いていなかった。
しかし、公爵家の近くにいたのだろう。
まあ、理由までは分からないけど、場を外していたのは確かよ。
そうでなければーー
私は薔薇の温室でのルーファスを思い出す。
迷い無く首元の襟を下ろしたじゃないか。
彼はそこに絞殺の痕があると知っていた。
そして、癒やしてくれたのだ。
癒やすのが目的で、温室に行ったのかもしれない。
セイは、気にしているのでしょうね。
二度目の暗殺未遂を止められなかった自分を。
彼は回されるべくして、私の護衛に回された。
もしくは本人が希望した。
失態への贖罪だ。
事実上は失態ではないのだが。
感覚的には失態になる。
気にしてるんでしょ?
だから答えてくれたのよね。
だから一緒に水を飲んでくれるのよね。
だからローストビーフのサンドイッチを食べた時、必要以上に慌てたのよね。
その部分に付け込じゃってゴメンね。
一緒に返上作業をしましょうよ?
私は笑って六回目の乾杯をしました。
しつこいようですが、水です。