【四十九話】影と密談
私は銀の杯に水を入れて、ヤケ酒のように水をグビグビ飲んでいた。
これってさ、ワインとかシャンパンで洒落込みたいところよね?
水かー。
シンプルだよね?
別に美味しいけど……。
物足りないっていうか?
酔えないっていうか?
別にミシェールはお酒なんか飲んだこと無い訳だけど。
私はセイの杯にも水をグビグビ注ぐ。
勿論こちらも銀杯だ。
四組貰ったのよ?
素敵でしょう?
これで乾杯と行きましょうよ?
飲み明かすわよ!
「乾杯!」
私が杯を翳すと、セイはイヤそうな顔をした。
眼が座ってますね?
「何回乾杯すれば気が済むんだよ、早く寝ろよ」
デリカシーの無い男ね。
私、昨日、寝込みを襲われたのよ?
「寝るのはすっかり嫌いになりました。察してくれる?」
「あぁっ! 何の為に俺がいると思ってんだよ、ふざけてんの? 食わない寝ないでどうやって生きてくつもりっ!」
何よ、さっきまで公務用に自分って言ってたのに、俺ってプライベート用の呼び方じゃないの?
「まだ、五回目の乾杯じゃない? 付いて来なさいよ」
「五回も乾杯すれば充分なんだよ。何の乾杯だよ」
私は首を少し傾けて考え込む。
「まあ、アレよ? 私とセイの友情に乾杯的な?」
「友人じゃねーし、友情も湧いてねーし」
くだを巻いてる?
ミシェール十六歳、公爵令嬢。
第二王子婚約者。
水で酔ってます。
影に絡み酒。
というより絡み水。
「あんたに聞きたい事が山盛りなのよ。付き合ってよ」
「短く簡潔に聞け。そして寝ろ」
セイもセイでプリプリしながら水を飲んでいる。
彼も考えると酷い被害者よね?
王子殿下の護衛の筈が、良く分からない令嬢の護衛に回され、その令嬢は毒が混入しているかもしれないパンを食べてしまい、その上部屋の掃除。
うん。
結構申し訳ないわ。
でも、解放もしないけどね!
「シンデレラっていう絶世の美女がいるんだけど、知ってる?」
「………」
「知ってるか? 影って諜報に強いものね? 強いというか専門だものね」
「………」
「まあ、私の血の繋がらない妹なんだけど。セイ? 彼女とかいる? シンデレラを一目見ればあんたも惚れるわね。綺麗な子なのよ? お勧めよ!」
ああ、テーブル越しにセイがゴミを見るような目でこちらを見ている。
これはこれで癖になるわね?
変な扉が開きそうよ?
「その子が惚れてる男の人が知りたいの? セイ、知らない?」
「……知るか、バカ」
ん?
今、変な溜めがあった?
「ちょっと、まさか! あんた既にシンデレラに会ったことがあって、その上、惚れてしまったの!?」
私は氷結の視線で射貫かれた。
ゾクゾクするよね?
ヤバイわ。
「まあ、セイがシンデレラに惚れてる惚れてないは置いといて」
「惚れてねーだろ。お前は俺のプロ意識を愚弄したいわけ?」
ん?
この反応。
やっぱり会ったこと? というか見たことはあるのね?
何で?
既に公爵家に探りが入っていた?
シンデレラも諜報対象になっていた?
「まあ、私の当初の作戦だとね、シンデレラと第二王子様が婚約すると素敵なんじゃないかな? と他人事のように思っていた訳だけど……」
そこで本気で睨まれた。
「無神経でデリカシーのない女。第二王子殿下のお心をなんだと思っているんだよ? ムカつく女。気が利かない出来損ないの宰相みたいな女だな」
なんでここで宰相?
駒のように感情抜きで政略結婚を考えるから?
しかし、なんというか。
私はセイの闇の様に濃い色をした瞳を見つめる。
今、彼とルーファスの関係が垣間見えた気がする。
ルーファスの心を大切に思う影なのね?
だから、私の護衛に回された?
私の為じゃなく、ルーファスとセイの間にある信頼関係の上で、私を本気で護衛すると踏んだのかしら?
あんな憎まれ口ばかり叩いている男の子なのにね。
主従が上手く行ってるのね。
私は水をグイグイ飲みながら、彼をニコニコ見ていると、気持ち悪いと一言言われた。
ええ。
自分でもそう思います!