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【四十六話】影は表裏一体



「うるさいバカ令嬢」





 私が影さんに呼びかけ続けること百回目。

 とうとう。

 とうとう。



 返事を頂きましたよ!

 私は心の中で小さくガッツポーズをした。




 酷い文句でしたが……。

 やった!



 だってさ、よく人の気配?

 という曖昧なものの存在について、どうこう言う事があるけど、実際問題どうなの?



 確かに、誰もいない部屋の筈なのに、何かがいる感じがする……。

 そういうものが、気配と呼ばれているものなのだろう。




 しかし…ーー

 影はプロですから(笑)



 気配なんてしねーー。

 って話ですよね。



 これ、第二王子様に言われなかったら、存在に気付いていなかったわね!

確実だわ。



 私は浮かれてわくわくしています。

 初めての生影。



 前世の私の興味が、前面に出て来ちゃっているのね?

 憧れの三大世界の一つが隠密と言っても過言では無い。



 少女漫画でも少年漫画でも一定量あるわよね?

 忍者的な世界観の物語。




 あのラーメンの具みたいなやつとかさー。

 写す瞳みたいなねー。

 同じですけども。




 天井裏の人は男性だったわ。



「うるさい、バカ令嬢」とか言ったし。



 女の子じゃなかった。

 オジサンでもなかった。

 若い男の子だった。




 どんな服を着ているのかしら?

 私の希望だと忍び装束なのだけど。

 


 この世界は和風ではないから、それはないわよね。

 洋風の影ってどんな格好が定番なのかしら?



 話してはいけないルールなら、百回話し掛けたところで、返事は返って来ない筈だ。

 返事をしてくれたのだから、話して良いルールなのよね?


 

 そう理解するわ。



 プロ中のプロですものね。

 そうと決まったら話さない手はないわ。



「ねえ、影さん。降りて来てよ。お話しましょう」



 私は唯一の私物、バスケットを振った。

 中には干からびたローストビーフのサンドイッチが入っている。



「これね、今から食べようと思うのだけど、毒が入ってるのかも知れないの? どうしたら良いと思う?」



 しーん。



 返事なしかい。

 食べちゃうわよ?



「朝、公爵家のシェフに言って作ってもらったのよ? でもユルい家だから、いつ毒が混入するか分からないじゃない? 私、命狙われてるし? 毒って有り得るわよね?」



 しーん。



 むむむ。

 なかなかしぶといわね?



 私はバスケットを開けて、ローストビーフのサンドイッチを天井に向かって振ってみる。



 これでどうよ?

 私はアーンと口を開けて見せる。




 しーん。



 降りて来ないわね?

 食べるわけないって思ってる?



 まあ、食べるわけないけど……。

 でもお腹は空いてるのよ?



 そして暇なんだけど?



「ねえ、何で私、命を狙われてるの? そこが分かった方が対策の立てようがあると思うんだけど? 知ってたら教えてよ?」



 しーん。



 無視ですか、そうですか。

 うーん。

 どうしようね?



 何かさ?

 人がそこに確実にいるはずなのに、気配がしないというのは、違和感を受けるわけ。


 

 いるのかいないのか。

 ふとした瞬間に存在を忘れてしまう。



 私はローストビーフのサンドイッチを見つめる。

 テーブルに肘をついて、サンドイッチを見つめ続ける。



 実は、私にとってかなり切実になって来ているのが、食物摂取だ。

 朝から水分しか取っていない。



 ちょっとした後遺症よね。

 コレって。



 死にかけた後遺症。

 殺されかけた後遺症。



 怖いわけだ。

 生死を彷徨うのが。



 怖いのよ。

 飼葉に入れられた何かが。




 エポルに何の罪があったのだろう?

 有りはしない。

 動物なのだから。



 いつもの餌を食べただけよね。

 くれる人を信じて。



 もっと突き詰めると、飼い主である私を信じていた。

 私にもっと注意力があったら、結果は違っていただろう。



 ローストビーフのサンドイッチは朝作ったもので。

 お昼に食べようと思っていたから、夜の今ではもう食べ時を逃している。




 やりきれないわよね?

 動物を攻撃されるのって。



 人を殺そうと思う人って、必死なのね?

 何をやっても許されると思っているのかしら?

 動物の命なんて、どうでも良くなるの?



 それはそうよね?

 だって人間を殺そうと思っているのだもの。



 倫理観なんて失ってる。

 そんな人間と、どうやって戦うのかしら?




 正気を失った人間と、正気を保った人間。

 どっちが強いと聞かれたら、それは自ずと答えが出るわ。




 影さん。

 私もあなたも、きっと縛りが多いのでしょうね?




 私はローストビーフのサンドイッチを口に入れて一口噛む。


 パンから水分が抜けてパサパサなんですけど?







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