【三話】 シンデレラと言います
瓜が三つだったらどうしよう?
私の妹の名はシンデレラと言います。
妹の碧色の瞳を恐る恐る見る。
しかし、高速で目を反らす。
怖いっ。
見るのが怖い。
告白します。
私はシンデレラを虐め抜いた義理の姉Bです……。
……死にたい。
いやいやいや。
私、死んだばかりなんだよね。
体感的には。
どうしよう?
……泣きたい。
いやいやいや。
泣いても解決はしない。
とにもかくにも、私はこの罪のない心根の優しい女の子をいじめ抜いていた一人なのです。
……恥ずかしい。
もとい……醜い。
ミシェールの心が……。
惨めさというか、情けなさというか、そんな感情で胸がいっぱいになって、大声でごめんなさいと叫んで地平線の彼方まで走り去りたい。海に沈む?
私はミシェールがしたあんな事とかこんな事の記憶がちゃんとあるのです。
殆どは姉Aと母の影に隠れてはいましたが。
「そうねお姉様」とか「そうよお母様」とか言ってたー。
間違いなく言ってましたー。
おいしいお茶菓子があると、大きい方を自分の分にしていました。
もう何の躊躇もなくしてました。
妹には出涸らしのお茶とかあげてました。
ついでに懺悔すると、商人が持ってきたガラスの靴を、シンデレラが欲しそうにしていたのを知りながら横から掠め取りました。ええ取りましたとも。間違い有りません。
だって素敵だったのよ。光が当たると色を透過して七色になって。
あれは返そう。
うん。彼女が持つべき物だから。
後、私に出来る事はなんだろう?
近々お城であるダンスパーティで王子様の断罪を受けて、国外追放になったら、謝って一目散に徒歩で国外まで走り抜け、隣国の小さな図書館で司書でもしたいわ。
というか王子様とシンデレラの前から、消えたい。切実に視界からいなくなりたい。
罪滅ぼしが出来たら消える。
今後の計画これでOK?
私は息を大きく吸い込んだ。
「ずっと看病してくれていたの? ありがとう」
にこりと笑ってお礼を言った。
今の胡散臭くなかった?
大丈夫だった?
この顔で人と友好的に接するっていうのも、慣れていないのよね。
まあ、司書だった頃も友好的なタイプではなかったわね。
種類が違うわけよ? タイプというか。
司書の頃の私は、本好きの無口タイプ。
でも、人に危害を加えるなんて無かった。
ところがミシェールと来たら!
浅慮というか、浅はかというか、思慮が足りないというか? (全部同じ!)
シンデレラはというと大きな目を見開いて驚いている。
吃驚しているわよ? 我が義妹よ。
義理の姉の変貌に驚いています。
「あの……、お姉様、まだ頭が痛いのではありませんか?」
笑。痛くねー(苦笑)
「それより、私、ガラスの靴を持っていたじゃない? キツいからあなたにあげるわ。看病してくれたお礼よ」
今の言い方で大丈夫だった?
意地悪そうな言い方じゃなかった?
何かさ?
ミシェールの口の筋肉が、意地悪な言葉を紡ぐ為にあるというか……。
つまりはその違和感があるわけよ?
その上、意地悪そうな声質でね。
頭にキンキン来る、甲高い声というか……。
どうしよう?
声帯は変えられないわ。
前世は低い声だったので、私自身も慣れない……というかキンキン来ます。
シンデレラは気を失わんとばかりに驚愕の表情をしていた。
あからさまに驚きすぎよ、シンデレラ。
そしてミシェール。落馬する前のあなたの罪は重い!
この意地悪さんめ!
「お姉様、お気は確かですか? お姉様の一番のお気に入りの靴ではないですか? それに小柄なお姉様の方が足のサイズは小さいですよ?」
なんですって!?
設定が違うわよ。シャルル・ペロー。
どうしてくれんのよ。
姉Aと姉Bは足が大きくて入らないって書いてあったじゃない。
ついでにグリム兄弟が書いた童話も、バジールが書いた童話も姉の方が足がでかいはずよ。
バグだわバグ発見よ。
私は落ち着くためにコホンコホンと咳をした。
慌てるんじゃないわよ。落ち着きなさい。
「お姉様、風邪ですか?」
笑。そんなわけねー(苦笑)
この子って天真爛漫なタイプなのねー。
こりゃ、ギスギスしているお姉様に虐められるわー。
「ごめんごめん。緩いからあげるわ」
「ぴったりでしたよ? ミシェールお姉様に」
笑。そうかい(苦笑)
この子は可愛くて空気が読めない天然さんか。
そうかそうか。
普通はこの辺りで私が靴を譲りたい事を察して引くものだけど、まあ言葉を言葉通りに受け止める素直さんなんだね。
うん。こういうタイプにはこういうタイプの接し方がある。
悪意がないのが利点で察しが悪いのが難点だ。
人の察し能力というのは、かなり個人差がある。
察しが良い人は器量よしと言われてかわいがられる。
当たり前の話だが、察しが良い人は話が早い。皆まで言わずに通じるから精神的ストレスを感じない。大きな長所だ。
秘書とか小姓とかにぴったりなタイプよね。
名前が似ているが能力がまったく違うのは司書だ。
司書は頭の中に膨大な雑学が入っていて、知識は高いのだが、やや自分の世界に没頭する傾向があり、気は利かない。回転速度も知識が重過ぎる故に遅めだ。
秘書はいつでも知識の断捨離をしていて、頭の中が整理整頓されている系。
出来る奴って感じ。
ミシェールという人間は前世の私とは違って、非常に空気を読む力に長けていて、頭の回転が速い。 別に知識の断捨離をしていた訳ではない。もともと知識が空っぽだったのだ。
意地悪さんというのは女子の場合、頭の回転が速くてずる賢くないと、成立しにくい。
もちろん頭の回転が遅くて意地悪な人間も存在するが、組織の先導は出来ない。
回転が早くて親切な人もいる。
胡散臭そうに見えるが、ただの能力値の高い良い人だ。
今の私は例外的に、両方の利点と欠点が内在している。
つまり頭の回転速度の速いミシェールと、ゆっくりマイペースに物事を判断していた前世の私が相まって、普通になってしまった……つまり長所が相殺された? ってことなのかしら………。
えー……。
普通、前世の記憶を持っていると何らかの利点が有るはずなのだが、相殺!? ってどうかと思います!
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