【三十八話】絞殺の証明
オフェリア多
人に殺され掛けた痕というものは、大変生々しいものだ。
昨日、私は殺され掛けたのだから。私も……大概嫌われたものよね?
命を狙われ、落馬させられた。夜中に部屋に忍び込まれて、絞殺未遂。
今日は令息方に囲まれ罵詈雑言。
ミシェール・カールトン。あなたって嫌われているのね?
誰も彼もがあなたをいらないと言う。
「ミシェール、痛い?」
「…………痛いわょ」
ルーファスが傷にそっと触れる。
私は痛みでビクリとなる。マジ痛いんだってば。
ちょっと触るだけで、ひーと声が上がりそうになるほどマジで激ヤバです。
この惨めな痣はアレよね? 証明書。殺され掛けた証明書。
これ程までに、強く人に憎まれている証拠。残念ながら、そういうもの。
「昔、ここで小さな女の子が言っていましたよ? 悪い人は必ずいるから、上手に逃げなきゃダメよって」
私は吹き出しそうになる。あの偉そうで無敵な令嬢のことですね?
それで言うなら私は逃げそびれてしまったのね。まったく要領が悪いったら。
「そうよね? 上手くやらなきゃダメね。どこへ行っても悪意ある人はいるのだから」
そう。どこにでもいるものなのだ。
私が殺され掛けたのが、私事か公事が知らないが、自滅したらきっと殺そうと思った人の思うつぼなのだろう。
けれど……。ほんのり時々思うわよね?微かに頭に過る言葉。
生きるのって、案外しんどいわ。憎まれるもの楽じゃない……。
時々よ? ほんの時々。
「その小さな女の子はね、僕が怪我をしているのを知って、冷やしてくれたんですよ? とても利発で可愛かったな。紅い長い髪を腰まで伸ばしていて、見るからに良い所のお嬢様という感じで」
子供の頃ってまあ、無邪気なものよね。しかし、盛ってません?御自分の記憶? 盛ってるよね。
めちゃくちゃ美化されてます。令嬢が腰まで髪を伸ばすの普通だから!みんな伸ばしてたし。
「手で絞められたの?」
縄とか紐の痕じゃないものね。ええ。手で絞められたわ。
「………殺そうね」
「……?」
「僕が、ちゃんと殺してあげるから」
犯人をという意味だよね? 色々会話が端折られたから、一瞬分からなかったわ。
「殺すの?」
ルーファスはその言葉に、これ以上ないくらい優しく微笑んだ。
「必ず、殺す」
顔は優しいのに、言葉はやけに物騒。殺す。というのは色々物議を醸し出す対処よね。
殺したところで、苦しいのは一瞬だから、生きて永劫の苦しを与える方が復讐になると考える人もいる。けど。多分、殺すというのは、苦しませる、反省させるという事が目的ではない。
二次災害を起こさせない。二度と殺人という機会を相手に与えないことだ。
つまりは被害者の身を守る術なのだ。生きている限り可能性はゼロじゃない。
法は変わるかも知れない。恩赦が行われるかも知れない。災害などで受刑者の管理が出来なくなるかも知れない。命がある限り何が起こるかは分からないのだ。
必ず殺すと言った。刻印の力がある人なのに。世界でも限られた魔術執行者なのに。
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