【三十六話】命の取捨選択
前哨戦
俗な話になってしまうが、人類の命題ではないだろうかと思う。
命の取捨選択。誰を助け、誰を助けないか?
自分なりの一定のルールを決めておかないと、いざという時に迷いが生じる。
周りの声が大きく響いたり、頭の中が真っ白になったり。
物事に決断を下すという事は、脳に想像以上の負荷を与える。
決断とは未来がつきまとう分、とてもデリケートな思考になるのだ。
仕事で経営者つまり社長、代表取締役、CEO、会長等、大きな決断を下す必要のある人は、小事は決めない。アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズが有名ではないか。イッセイ・ミヤケの黒のタートルを何枚も持っていると。
何か対外的な露出がある場合、この服を着ると決めている。
服を毎回取捨選択する事に脳を使って疲弊したくないから。
そう言う意味では、中高生の制服も便利と言えば便利よねー。
まあ、お洒落な人には不本意なんだろうけど、この世にはお洒落じゃない人だって沢山いるもの。
スティーブ・ジョブズの黒のタートルだって、ソニーの制服からインスパイアしたらしいし。
ちなみにCEOというのは、アメリカの企業から始まった組織上の呼び名。
チーフ・エグゼクティブ・オフィサー。最高業務執行者のことね。英語は長いなー。
まあ、話は大概逸れてしまっているが。
第二王子様は彼なりの基準を設けて人を助けているのではないか?
ということ。聖者は基本、基準を設けない。
設けるという事は、命の取捨選択が行われる。
故に聖者は命の取捨選択をしてはいけない。家族は後回し。命は全て平等。それこそが聖者。
ある意味、選択をしないという選択をしているわけだ。
ちょっと言い回しがモゴモゴしているが。
目の前にあること。その命を精一杯に救う。
それはそれで素晴らしいことだと思う。誰にでも出来る事じゃない。
出来ないことを行うから聖者と呼ばれるわけだ。
聖者とは一般的には聖人君子の事。特や品位が有り、知恵、教養に優れた人。高潔な人。
しかし、ファンタジー世界では、聖女といえば回復者。もちろん宗教的な色合いも濃いが。
第二王子様はどうなのか?
彼が聖者の論理で動いているかいないかは、私を助けたという事実により、ある程度分かる。
彼は自分自身が定めたルールにより回復魔法を使っている。
第一に、王族が反対していたという事実の上での公爵令嬢への回復魔法。
第二に、婚約者を助ける為に使った私用の回復魔法。
この二つが大きなヒント。いわゆる、自己判断ということだ。
しかも思考回路が公ではなく私だ。
私事の為の魔法執行。彼は福祉的な慈善事業はしていない。人助けの為ではなく、自分の為に使っているのだ。
結果的には私の為なのだが。第二王子様の中に、私に死なれては困ることがある。
超個人的な何かだ。そんなことを四六時中考えていれば、仕舞い込んだ記憶の棚にも手が届くわよね。私は第二王子ことルーファスのことばかり考えていた。
その事実が過去の記憶を手繰り寄せた。
性格の悪い、人の裏が読める、タフな令嬢だから、王族に迎え入れても苦しまない。
と言う理由だけじゃ、命を助けた理由としては小さすぎる。
話が合うから、悪友のとして気兼ねなく付き合えるから。それも確かに理由の一つかもしれない。
しかし実行するには軽すぎる。どれもピンと来ないのよ。真意は別の所にあるのでしょう?
それをあの温室で確かめ合う。あなたの真意と、私の記憶。そこから来る答えを。
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