【三十四話】魔力行使の光と影
二百三十三分の一。
右目に刻印を施した後、彼らは痛みからか、それとも魔法の作用によるものか分からないが、四人が四人とも気絶した。まあ、するわよね。
目という器官は基本的に痛みに弱いというか……。
痛みを強く感じる上に、恐怖心もこの上ない。
自分で患部を確認出来ないという、視力器官という事も、恐怖に一躍かってるのでしょうね。
第二王子様ことルーファスは、そんな四人をブレットに任せて、私の手を取って散歩に誘ったのだ。王族用のお庭を散歩しませんか? と。
壮絶な魔力行使の後とは思えない涼やかさです。
肝が案外太いのかしら? それともとうの昔に覚悟を決めている?
どちらにしろ私も覚悟を決めました。
何の覚悟かというと、魔法というものに向き合う覚悟。
遅きに逸した感はあるが、手遅れではないと思う。
そもそも私の命というものが、魔法により繋がれた訳だから。
魔法の恩恵を受けるなら、もちろんそこから派生する影も受け止めるべき。
ということ。
簡単に言うと、これから足が竦みそうな現実を目の当たりにしても、決して魔法及び魔法行使者を否定しないという。そういう事。
なんだって表と裏があるじゃない? 綺麗なこととそうではない事と。
公爵家にだってあるし。王族にだってあるし。政にだってあるし。
医学にだってあるし。魔法にだってあるわよね。
私にだってあるし。ルーファスにだってある。
色々綺麗事じゃ済まされないのよ。子供じゃないからね? 真っ白な世界は卒業よ?
そこまで考えて思う。私、全然潔癖な子供じゃなかった。
かなり子供にしては融通が利くというか。笑っちゃうほどしたたかというか。
結構腹黒令嬢。真っ黒な世界とまでは行かないまでも、グレーラインは抵抗なかったり。
そうこう考えを巡らせながら、私はルーファスに手を取られながら、広くて手入れの行き届いた庭をゆっくりと歩いて行く。
ここは王族専用のお庭で、私は王族ではないのだから、初見ということになるが、もちろんこの庭の事はよく知っている。勝手知ったる他人の家ってやつね。
どこに何が植えられてて、どこに温室があるかなど、頭の中にハッキリと地図が描ける。
お気に入りの場所だしね。
つまりルーファスの足が、どこに向かっているか分かっているつもりだ。
彼は薔薇の温室に向かっている。
私と彼は、手を繋ぎながら、昼下がりの庭園を歩きながら、あの、薔薇の咲き誇る温室に向かっているのだ。
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