【三十二話】右目の刻印
痛そうです
令息方はというと、右目を押さえて、痛みのあまり絶叫している。
……なんとなく想像出来るわ。
きっと目に焼き印を押したように痛いのでしょうね。
だってのたうち回っているもの……。
私の予想だと、というか奴隷契約の魔法だったりすると、第二王子に逆らおうとすると、右目がズキリと傷むんじゃないかしら。
たぶんそうよね。黒魔法のセオリーだわ。
令嬢の肩を押した事によって、黒魔法の呪いを受けたとなると、何というのかしら?
低リスク、高リターン? 投資家的に言うと……。
ある意味高リターンではあるけども。恐ろしい程に……
『やられたら百倍返し』とも言う。
彼の有名な銀行家の台詞ですものね。百倍返しのシーンははなかなか気持ち良いもので。
モンテクリスト伯と被るかしら。でもあれは百倍じゃなくて等倍返しですけども。
三人の男に嵌められて十四年も投獄された。時間、婚約者、仕事。
全てを失ってしまった。
令嬢の肩を押すっていうのは、もちろん十四年間の投獄に比べるべくもない。
私も大分、頭が冷えて来た。
これはきっと口に出してはいけない感想だと思う。
私を助けてくれた人に対して、やり過ぎでは?
等という疑問を口にすることが、どれほど無神経かは理解しているつもりだ。
それは小さな裏切り。助けてくれた人への。だから言わない。
私も、正面から受け止めるべきなのだ。
なぜなら、水を掛けて令息を煽ったのは、私自身なのだから。
『回復速度は一万倍』
先程の回復魔法の説明を元に考えると、治癒力を一万倍に促進すると言う意味なのだろう。
一万倍……。
その数字の大きさが異常な事は、素人でも分かる。
通常速度の回復機能を、一万倍にする訳だ。
つまり一分で再生する細胞を一万分にするという事。
一日が一万日。二日が二万日三日が三万日だ。
人は六十年生きると、二万九百日生きる事になる。九十年で、三万二千八百五十日。
回復魔法というのは、よくよく考えてみると時間魔法の概念に似ている。
血と真名さえあれば、他人の中にある細胞の時間を操れるという事だ。
右目に刻印された魔法陣が発動すると、彼らの体内劣化速度は促進され、三日で九十歳年を取る事になるのじゃないかしら?
今、十六歳なので三日で百六歳。
四日目は確実に生きてはいない数字だ。
生殺与奪の権利を握ったも同然。
命の糸がカゲロウのように儚げになってしまった。
結果から考えるに、なんともリスクの高い虐めだったと思う。
後学になったゎ……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
ブクマ&評価して頂けると嬉しいです!