【二十六話】小鳥は令息?
婦人?
庭園は暖かくて、昼だというのに小鳥のさえずりが聞こえる。
足元に広がる光景(令息の土下座)さえなかったら、平和な日常よね。
「ルーファス様、わたくしね、お昼をご一緒にしたくて、サンドイッチを持って来たのです。けれど、これも私の命を狙って、何か混入しているかと思うと……」
そこまで言っただけで、ルーファスは意を得たりと、微笑んだ。
もちろんコレ、純粋な微笑みじゃあありませんよ?
企みの微笑みです。
「ありがとう、ミシェール。ではここにいる令息方にも食べて頂きましょうね? それで自ずと答えが出るでしょうし」
ええ。身に覚えがあれば、決して食べれはしまい。
私は令息方に一切れずつローストビーフのサンドイッチを渡していく。
自身の手で渡したのは、一人一人表情をしっかり確認していく為だ。
分かり易く震えている。
貴族って、本来上に立つことに慣れすぎているから、こういう体験てしたことないのでしょうね?
「我が家の料理長が腕によりをかけて作ったものですの。さあ、召し上がれ?」
一人は目が泳いでいる。どうすれば良いか分からずにいるのだ。
そしてその視線が、自然とアーロンに集中して行く。
そうよね? 貴方達四人組は、アーロンを中心に形成されているグループだものね。
話掛けて来たのもアーロンで、肩を押したものアーロン。
どう出るのかしら?
毒の可能性が有ると明示されていて、食べるバカはいない。
死より屈辱の方が何倍も増しだ。
賢明ならば、謝罪に出るはず。
しかし、先程の件から考えても、彼らは決して賢明な人種ではない。
「殿下」
アーロンが意を決したように口を開く。
「私は思い違いをしておりました。ミシェール様は殿下の妃に相応しい素敵な女性だと思われます。私達四人は、殿下と公爵令嬢であるミシェール様のご婚約を祝福し、意志に従いましょう」
ローストビーフを前に、頭が冷えたのか、アーロンは頭を下げ謝罪の言葉を口にした。
彼らに謝罪以外の道は取り敢えずは見当たらない。
当然、毒が混入しているかもしれないローストビーフは食べられない。
王家に忠誠を誓っている臣従契約を反故にして反旗を翻す場合、十中八九、家からの勘当が待っている。 そうすると最早貴族では居られなくなる。
それも生まれながらの貴族の彼らに取っては苦しい人生になるだろう。
王家あっての貴族なのだから。
「では、ここに忠誠の意を示す血判を押すように」
ルーファスが後に立つブレットに手を出すと、透かさず書類が差し出される。
え? 血判って言った? 血判?? そういう纏め方?
書類? 準備してあったの?
すっごくタイミング良く出したわよね、ブレット。
待ってましたという感じで。
彼らの前に出された書類は、多分王家及び第二王子に忠誠を誓う的な何かが書いてあるのだと思うが……。悪事を働く時に押す血判は、離脱を許さぬ為に押す。
では忠誠を誓う血判とは、どういう拘束力があるのかしら?
王家と貴族というのは、臣従契約を結んでいる。
その上で、王子と令息で個人契約を結ぶのかしら?
家と家ではなく個人と個人で結ばれる契約書。
令息方も、納得しているのかいないのか分からなかったが、いそいそと書類を読み、用意されたペーパーナイフで指の先を切っていた。
そしてルーファスの手元に四名分のサインと血判が押された書類が戻ると、彼はとても愉快そうに笑い出したのだ。
「古の魔法を知っているか?」
は? ルーファスが変なことを言い出しました。
ブレット以外はみんな呆然としているし。もちろん私も。
古の魔法?
ここで魔法使いのおばあさん降臨ですか?
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