【二十一話】王宮図書館の日差しの中で
古文書には興味津々
食べ物が喉を通らない二つ目の理由は、一つ目よりシンプルだ。
二週間に渡り気を失っていた為、固形物が摂取出来ない。
それだけの理由。
病み上がりの人間は、パンがゆとかから始めるんだろうけど、今朝はそれすら飲み込む事が出来なかった。ちゃんとルーファスが置いていった銀食器に入れましたけどね。
というか王子は既に毒を警戒してた訳だよね。そう思うと少々複雑。せめて口に出して説明して欲しかった。言わなくても分かるでしょ? 的なものを期待しないで欲しい。
現公爵と血の繋がっていない継子の令嬢は、命を狙われる事に鈍感なんですよ?
王族とは違います。
しかしーー
私は今、餓死という現実が目の前に迫っている。
どうなんでしょう?
二週間絶食していて、王立図書館まで歩いて来られるもの?
故に私は魔法的な何かで、栄養補給をしていたことになる。
生物学的には、水さえ摂取していれば、人は二ヶ月生きて行けるという。
が、それは本当に生命を維持しているだけというレベル。
人が人として身体的にも精神的にも健康でいられるのは、一週間から二週間弱。
意外に短いのだ。
個人差はあると思うが、その辺りから意識が朦朧とし、手足に痺れが出るらしい。
大変危険な状態になる。怖っ。
私も固形物を一口でも食べられるようにしないと。
バスケットにはローストビーフのサンドイッチが山と詰まっているのだが、とてもじゃないが食べられそうにない。
というかローストビーフはアウトだ。
外側のパンを水で溶かして流し込もう。
麦がゆよりはパンがゆの方が敷居が低そうではないか?
銀の食器を持って来たので、そこに水を入れて、毒を検知してみよう。
しかし、それだけでは大量に余ってしまう。もったいないかな?
この王立図書館内で働いている方にお裾分けとも思うが、その場合、パンだけじゃなく、挟んであるサラダとローストビーフの毒検知もしないとよね?
その辺に魚でもいないかしら?
虫? 小鳥?
小鳥か……うーん。
ちょっと勇気がいるわね?
平日の昼間だというのに、結構な人の出入りのある図書館だ。
多分、資料室的なものが併設されているのだと思う。
そんな王宮勤めの人から、凄い視線を感じるのよね?
何て言うのかな、好奇の目。
好奇の目は、好奇心と同じ字を書くけれど、好奇心とは別の意味も含んでいる。
軽蔑。見下し。そんな意味。
しかも噂話がほんのり聞こえる訳よ。
「あれが、落馬までして第二王子を射止めた公爵令嬢だよ。凄いな」
「第二王子も気の毒に。あんな毒婦に騙されるなんて」
「何でも王族中が反対したらしいぜ」
「あの顔みろよ、気が強そうで鼻持ちならない女」
最初は興味津々で聞いていたけれど、途中から少し耳を塞ぎたくなった。
やっぱりあれね。
自分の悪口というのは、なかなか心に突き刺さって、元気とか気力とか明るい気持ちを取り去ってしまうものね。
大丈夫と言い聞かせても、心が澱のように沈んで行く。
だって私、昨日殺されかけたしね。
この世の何処かに、私の死を心から願っている人がいる。
そんな存在。
私からのお裾分けなんて、誰もいらない。
小鳥にでもあげてしまおう。
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