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【十九話】闇の中

バスケットは女の子の鉄板




 耳の奥にドンという強い音が響いた。

 これは心臓の音?

 誰の?

 私の?


 全身が脈打つ様に、鼓動していた。

 血が逆流している?

 呼吸が苦しい。

 耳の奥で、心臓の音がドクンドクンと響いている。


 


 驚きの余り目を見開くと、私の上に闇より濃い何かが覆い被さっている。

 その闇の重みが関節の動きを封じていた。


 右足を左膝で、左足を右膝で、そして右手を左手で拘束している。

 何て器用?

 というより、人間工学に基づいた押さえ込み。



 唯一動く左手を動かしてみたが、何かに弾かれる。

 その闇に紛れて判別がつかない何かが、私の首を締め上げている。

 


 絞首?

 殺される?



 人を呼ぼうとしたが、喉に力は入らない。

 それもその筈、喉の隆起を強く押さえ付けられると、呼吸困難を起こすのだ。



 プロの殺し屋?

 いいえ違うわ。



 殺し屋なら、一瞬で喉を掻き切っていたでしょうよ? 

 絞首を狙う理由は?

 返り血を浴びたくない?


 確実な方法があるのに、リスクを取ってでも過程を優先したならば、そんな甘い考えを持つ者はプロじゃない。素人だ。



 ただ、絞首に数瞬の間があるといっても、長くは持たない。

 意識は分からないけれど、窒息八分以上で、大脳が損傷すると言うし。

 そもそもその前に気を失う?

 いえ、死ぬ?



 海女さんは五分くらい息を止められると言うけど、凄くない?

 じっとしている分けじゃなくて、体を動かしているのに。

 つまりは酸素を大量消費しているという事。




 けど、私は海女さんのように肺活量を鍛えてないし。

 かなりヤバいわ。

 二分くらいで状況を変えないと死ぬかも?



 最近は随分と死が近い。

 


 エポルの夢を繰り返し繰り返し見ていた理由が今分かった気がする。

 あれは落馬する直前の私が、落馬した後の私に送っていたメッセージだったんだ。



 愛馬はいつもと様子が違っていた。

 何か細工をされていた。

 そう、食事に興奮剤または馬の視力を霞ませる薬を混ぜられた?



 気を付けなさい。

 あなたは、命を狙われている。


 繰り返し繰り返し、夢の中から潜在意識が警告を発していた。

 アレは事故ではないのだと。

 明確な殺人未遂。


 それを意識に焼き付けろと。

 


 私はそのメッセージの意味も理解出来ずに、のうのうと寝ていてた。

 そしてこのざまよ。



 悔しいわね?

 自分が送ったメッセージを受け取る事も出来ないなんて。

 危機管理が浅いのよ。

 


 左手できつくシーツを握る。

 



 急所だ。

 急所を狙ってみよう。

 唯一動く左手で。



 どの急所を狙う?

 左手の位置に近いのは膀胱の辺りなんだけど。

 膀胱には神経の束が存在する、そこを少しでも傷つければ相手の動きは止められる。



 男なら効果絶大?

 金的は古今東西鉄板の急所だ。

 基本中の基本だよね?

 

 しかし、令嬢が金的かぁ。

 ミシェールらしくて最高ね。


 最高なのは良いけど、股を狙って力を乗せ切れるか? 

 というのが問題だ。

 もう少し、外し難く、加速のつく場所。

  

 

 人間の急所とは基本、中心線にある。

 鍛えられない部分だ。



 上から額、鼻、鼻の下、顎、喉、肋骨、みぞおち、股。



 急所は武道の本や自己防衛の本に載っている。

 何でも読んでおくものだなと思う。



 目を狙いたい所だけど、どうだろう?

 目潰しも急所の鉄板だ。

 金的と同じくらい有名かしら?



 しかも金的と違うのは、確実にガードがない。

 つまり覆っている防具的なものがないのだ。


 

 当たり前と言えば当たり前だが、目を覆い視界を塞いでやって来る刺客はいない。

 目はその機能故、無防備である。


 

 が、当然私の手が視界に映る。

 つまりは避けられやすいということになる。



 避ければこの体勢は外れる訳だから、それでも充分過ぎるのだが、眼球というのは体の部位の中では窪んでいる。つまりターゲットゾーンが狭い。


 

 喉だ。

 喉に狙いを定めよう。

 男なら喉仏は急所中の急所だ。

 

 反射的に仰け反るはず。

 仰け反らなかったら潰してやる。



 今、私がされているように。

 人を殺す事で未来を変えようとするような、短絡的な人間に殺されたんじゃ、私が浮かばれないわ。



 浮かばれないというより、私の信念として引けない感じ?

 悪意に負けるなんて、現実がつまらな過ぎる。

 


 決めたら即行動だ。

 一分一秒が命に繋がる。

 私はグッと拳を握り混む。



 行くと決めた瞬間、真下から、左手を突き上げた。

 死角から、私が持てる力の限り。

 強く、速く。




 (こぶし)で行くか、手刀で行くか迷ったが、思い切り拳で行った。

 握り潰すより、威力を優先させてみましたが、どうなんだろう?



 

    

 私の喉を締め上げていた影が後方に仰け反った。

 手応え有りだ。




 思いのほか、軽い体がベッドから飛び退き、そのまま闇に紛れるように遠ざかって行く。


 

 私はと言うと、その影を間髪入れずに追い掛けたーー訳では無く、呼吸困難な所に空気が入り、余りの苦しさにベッドの上でのたうち回っていた。



 

 苦しい。

 普通に死ぬレベル。



 咳が止まらなくなて、涙が滲む。

 私はゼイゼイ息をしながら、両手で喉元を触る。


 痛い。

 首の腱が押しつぶされた感じ。

 何度も何度も不規則な呼吸を繰り返した。


 

 異世界もなかなかハードですね。

 私は一睡もせずに、夜明けを迎えた。



いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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