【一話】 転生?
知っているような、
知らないような世界です。
どっち?
目を覚ますとそこは別世界でした。
(何? これ? ベッドに天蓋が付いているんだけど? 昨今、有り得ない形状じゃない? 童話の中のお姫様みたい?)
「ミシェールお姉様?」
いつまで経ってもぼんやりとしている私を、一人の少女が心配顔でのぞき込んで来た。
あら? 超絶美少女!?
雪のように透き通る白い肌と薔薇色の頬が眩しい。
美少年も尊いが美少女も同じくらいに尊い。
そこに性差は存在しない。
つまり三十七歳独身腐女子。
リアルより本をこよなく愛し、現実とは焦点の合わない生活をしていました。
守備範囲は割と広いと自負していたけれど、この世界はどこだろう? 中世ヨーロッパ? はたまた剣と魔法のファンタジー? それともライトノベルによくある悪役令嬢?
いや、少し掠るんだよね……。
ある世界が……。
私はつまり異世界に転生したんだよね?
そう考えないと、説明が付かないほどの違和感だし?
それに記憶が二つある。
日本で地味に司書をしていた記憶と、このミシェールと呼ばれた少女の人生の記憶だ。
アレよアレ。
馬から落ちたんだわ……。
よくぞ死ななかったなミシェール……。
馬上は結構な高さがあるよ?
こんな御嬢様ななりをしておいて、意外に受け身が上手かったのかしら? 貴族の嗜み?
取りあえずそこは置いておいて。
とにもかくにもミシェールは落馬をして気を失っていた。
そして今まさに目が覚めたという訳だ。
目が覚めてみたら、頭を強く打ったせいか、前世の記憶が蘇ったと。
ちなみに前世では、地球という星の日本で本の管理をしていました。
三十七歳独身腐女子。
本が頭に落下して即死。
という経過だと思う。
死んだかどうだかは正確には分からないけれど、転生してミシェールをやっている以上、その可能性が一番高い。
私……大分地味な前世だったんだなー。
しみじみと感慨深い。
独身で司書って……。
地味中の地味だ……。
本が大好きだった。
活字の世界は現実の世界の広さと同じだと思う。
なぜなら、過去や現在、生きていた人間の頭の中を、無限に現しているから。
人間の脳の可能性は無限だ。
そして、生まれた人間の数だけ存在している。
心とも言い換えられるけれど。
広いこと広いこと。
その世界に浸るのは心地が良かった。
考え方や生き様が興味をそそった。
現実の人間というのは、寡黙であったり、沈黙であったり。
心は見えないし、思考は語らない。
でも、本の中で人は赤裸々に雄弁に自分の感情を吐露する。
意外過ぎる価値観や、隠し持っている優しさ。
一冊の本を読めば、心の一部を知ることが出来る。素晴らしい。
ミシェール、今日から本を読もう?
私はもう一人の私に話しかける。
シュールですね。両方私ですから。
私の本の知識は前世のものだから、つまり日本の知識だ。
地図帳ですら細部まで読み込む人間だった。
読み応えがエグい。
この世界の知識が少ないのは、ミシェールが本を読んでいないからだろう。
それはいかん。
明日からでも本の虫になってもらいます、ミシェール。
そうでなければ落ち着かない。
私は他人事のように、何度も何度も頷いた。
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