【百六十九話】天使目天使科
オリヴィアお姉様とネイト殿下になります。
オリヴィアはこの国の王太子であるエイベル・アッシュベリーと結婚して王宮に住んでいた。東の宮を頂き、わりと悠々自適に暮らしていた。オリヴィアは大変意地悪そうな顔というか悪役のような顔をしていたから、特に誰かに侮られたり虐められるというような事はない。影で嫌がらせをしてくるような矮小な人間は、その矮小な人間が一番嫌がる事をすればよいのだ。即ち迷わず公にする。メイドならメイド長、侍女なら侍女長。そして夫である王太子に全て筒抜けにするのが重要だ。嫌がらせをした人間は王太子によって闇に葬られるだけだ。彼はそういう所に躊躇や迷いというものを見せない。相手の気持ちになったり尊重もしない。自業自得としか考えない割り切った考えの持ち主だ。それくらい割り切らねば快適な王族生活等出来ないのだろう。
それが故に、オリヴィアは快適に過ごしているのだが。そんな折り、王宮のガゼボで天使に出会ったのだ。髪は薄い透けるような金色の髪。いや金色というか黄色の髪なのだ。銀と黄色が混じり合ったようなストレート。白い肌は透明感があり、血管が透けて見えそう。瞳は空色。あんなに可愛い者にはそうそう会えないのではないかとすら思う。しいていうなら、七年前にオリヴィアの実家であるカールトン公爵家へ預けられた第三王子と似ているだろうか? 彼の幼少期に似ている。つまりあの天使はそういう筋の者だ。
静かに本を読んでいる。本好きだとは聞いていたが、明るい庭で読むのが好きなのだろう。その趣味も彼に良く合っている気がした。ちょっと話しかけないでオーラが出ていたが、気にする事はない。何故ならオリヴィアが話したいからだ。せっかくここで会えたのだから、話しかけないで通り過ぎる等有り得ない。
ここでこうして天使を鑑賞しているのも、なかなか素晴らしい事だったが、話す表情なども見てみたいではないか? でも彼はあまり話さないと聞く。侍女に言って便箋でも持って来させようかしら、それが良いわ。オリヴィアの行動は早い。さっさと要件を侍女に頼むと、ガゼボに近づいた。
「ご機嫌よう。 ネイト様」
「………」
第四王子であるネイトは驚いたように体を硬くしてオリヴィアを見上げる。可愛らしい少年だ。差し詰め文学少年という天使なのだろうと思う。早く立ち去って欲しそうにしていたが、オリヴィアは堂々と隣に座った。オリヴィアが座りたかったからだ。
「フィラル国の建国語りを読んでいたのですか?」
この聡明な少年は、翻訳ではなく原文で読んでいた。言語が得意なのは本当なのね? 彼の横には寄り添うようにヤドカリの縫いぐるみが置いてあった。あれは重要な精神安定剤の一種ね。触ったりはしない方が良いかしら。こうして見ると本当に弟のキースに似ている。彼とは血の繋がらない弟という関係だったが、今は正式に夫の弟なので義弟だ。そして目の前にいる少年も義弟になる。結婚すると弟が三人も出来るのね。そこは素敵な所だわ。
「海に興味がお有りですか?」
少年は声を出さずに頷いた。ヤドカリも海のものだし、キースが贈った帽子も巻き貝だった。海に何かしら惹かれているのだろう。ならば面白い事をしてみようか?
「私の妹も、落馬事故にあってから、人が変わったように本好きになってしまったの。きっとネイト様とお話が合うと思うのです。今でもフィラル国から届く手紙にはフィラル国の図書館の話が書かれているわ」
少し興味深そうにネイトが頷く。手応え有りだわ。
「あ、妹のミシェールに大切な事を言うのを忘れてしまったわ。どうしようかしら。直接言いたいけど、私は王宮を離れられないし……」
天使は首を少し傾けて、こちらの話を聞いている。
「ネイト様? もし宜しければ、ミシェールに言付けて下さいませんか?」
数瞬後、可愛い天使は困惑しながら「え?」と言ったのだ。
可愛いお声頂きました! 永久保存しておきます。