表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/171

【百六十八話】海の底

海洋国フィラルの伝説とネイト王子のお話になります。


 海の底には、海の王が住むお城があって、それはピンク色の珊瑚礁で出来ている。王には綺麗な六人の姫がいて、末の姫が一番美しいという。


 アッシュベリー王国第四王子であるネイト・アッシュベリーは王宮の一室で大人しく本を読むのが日課だった。毎日毎日を本を捲りながら過ごしている。隣の席にはヤドカリのセバスチャンがいて、その縫いぐるみは僕の心の執事のようなもの。来客があれば心のドアを開き、誰もいない時は閉じている。怪しい人の時は半開きになる。王妃陛下から下賜された物だった。特に誰に? というものではなかったのだが、僕が欲しそうにしていたら気づいて下さったのだ。


 王妃陛下は、陛下からの寵愛を一身に受けているフィラル国出身の王女。フィラル国王の妹姫だった人だ。フィラル国王からも大変に可愛がられていた王女だったという。それも分かるような気がした。真珠の光沢を思わせるような七色の髪に、透き通った海のようなエメラルドグリーンの瞳をしている。存在そものもが宝石のような人だった。そして側妃の息子である僕にも優しくして下さるのだ。


 何故第四側妃の息子である僕にも優しくして下さるのか分からなかった。分からなかったが、彼女は僕を透明人間のようには扱わなかった。国から王子達へのプレゼントとして届く贈り物の中から、僕の好きそうな海の図鑑や薬草学、海の生き物の縫いぐるみ等を下さる。そして、その宝石のような瞳に僕を映して微笑まれるのだ。


 第一王子も第二王子も大きくなったから、これらは兄たちは喜ばないだろう。だからネイト王子、あなたにあげましょう。もしかしたら僕の中に、兄王子達の面影を見ていたのかもしれない。王太子である一番上のお兄様は今年カールトン公爵令嬢のオリヴィア様と結婚なされて、独立した宮に住んでいらっしゃるし、第二王子であるルーファスお兄様は、結婚の儀に参加された後、婚約者のミシェールお姉様と隣国に留学された。 


 そして王妃陛下のお腹を痛めた子ではなかったが、第三王子のキースお兄様も長い準備期間を経て、正式に王族籍を離れ公爵位に着いた。今残っている王子は王太子のお兄様と僕だけとなる。王太子のお兄様はもう子供と呼べる歳ではないので、幼い王子は僕だけとなる。僕と王妃様は血は繋がっていなかったが、陛下とは繋がっている為、別腹のお兄様ともなんとなく似てる。だからきっと僕の中に、大人になったお兄様達の幼かった頃を見ているのかもしれない。


 母である第四側妃は、決して王妃様に敵愾心を向ける人ではなかった。ひたすらにこの王宮で邪魔になからいように、息を殺して暮らしていた。王妃様の前では、それこそ空気のような何もない存在だったのだろうと思う。僕たち側妃腹の王子もけっして王妃腹の王子の邪魔になるような事はしなかった。僕らは彼らの手足なのだ。王家存続の為に盾となるもの。


 そんなお優しい王妃様が、小さかった僕にくれた一冊の本。フィラル国のお伽噺。青い海の底には、海を治める王国があると。そこには六人のお姫様がいて。という多分、フィラル国の子供達が読む物語なのだと思う。僕はこのお話が心に残っていた。華やかな海の底のお話。だけどどうしてこんなに悲しい話なのだろう。子供が読むものにしてはあまりにも寂しい終わり方をしている。なぜ? ここに出てくる末のお姫様というのは水の精霊ウンディーネの事なのだろうか? フィラル国の王子と結婚して幸せになるのではないのだろうか?


 私の大好きな王子様。どうか幸せを。この海に、この蒼い世界にあなたの永遠の幸せを祈ります。さようなら。大好きな人。あなたに会えて幸せでした。私は泡になって消えますが、あなたへの愛はこの海の中に。優しい水達がどうかあなたを守ってくれますように。さようなら。


 

少しだけ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ