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【番外編4 自由な小鳥】

 王太子殿下×オリヴィアお姉様の出会いです。

 



 今日は王妃主催のお茶会で、高位貴族が王宮の庭に集まっていた。具体的にいうと侯爵以上で適切な年齢の令嬢を持った貴族の妻という事になる。誰が見ても明らかな王太子の妃候補選び。


 退屈な時間だった。同じ年頃の令嬢が集まって、焼き菓子を食べながらお茶を飲むだけ。僕の周りには身分の高い順に挨拶に来る。その挨拶を受けながら一人一人無難にやり過ごすのだ。彼女達は、自分に似合う色のドレスを纏い、にこやかに笑いかけて来る。この中から妃を選ぶのか? 大分難題だと思う。


 そんな時、僕は一人の令嬢に声を掛けられた。僕は王太子であったから、お茶会と言えども向こうから声を掛けて来る者は少ない。一歩間違えれば不敬に当たるからだ。彼女は今日のお茶会で初めて見る顔だった。確かカールトン公爵令嬢のオリヴィア。紅髪を腰まで伸ばして、縦に巻いている。……とても気が強そうな顔立ちだ。僕と婚約する等と言い出すのではないか? 多少の不安とそれを上回る興味が彼女の言葉に耳を貸すきっかけになった。


 彼女は僕を薔薇園の茂みに誘い腰を落とすように言う。


「今日は王太子殿下の妃を選ぶお茶会でしょ?」


 僕たちは薔薇の茂みに中腰になって、お茶会が行われている庭を見ていた。端から見れば変な絵面だっただろう。僕もそんな体勢で盗み見なんて行為は初めてだ。


「あの、ピンク色のドレスを着ている令嬢いるでしょ?」

「いるね」

「あの子は王妃にしては駄目。陰で悪口を言うような性根の子だから」

「ふーん」


 僕にライバル令嬢の悪口を言って、取り入るつもりだろうか?


「あの黄色いドレスを着た子は、お兄様が二人いて、割と快活で表裏がない。悪くないわね」


 褒め言葉も言う訳ね。


「殿下は行く行くは王になるのでしょ? 私、一国の貴族としてあなたに幸せになって欲しいのよ? 王が幸せな方が、国民も幸せだから。引いては貴族も幸せでしょ? その一つとして、良い子を選んで欲しいの」

「ふーん。それが僕を薔薇園に誘った行動原理?」

「あら?」


 少女は少し首を傾けて笑った。


「あなた意外に頭の回転が良いのね?」


 その言葉は薔薇園に誘うより不敬に思われたが、僕は何も言わなかった。彼女は垣根を越えて僕の前にやって来た珍しいタイプの令嬢だったから。自分が王妃になりたい訳ではないのだろう。国王が幸せ→国民が幸せ→私も幸せという論法だ。大変自分の利益に忠実な行動という事になる。


「僕の幸せを願ってくれるの?」

「そうよ?」

「自分の為に?」

「そうよ、自分の為にも。間接的にあなたの為にも」


 そう言って彼女は笑った。

 気の強そうな顔をしていたけれど、大分取っつきやすい令嬢のようだ。

 空を飛ぶ、自由な小鳥のようだと思った。

 彼女は彼女を制約するものがない。

 きっと幸せなのだろう。

 王太子を前にしても、自分の言いたいことを言える、僕が言っても平気な人種だと一瞬で判断した洞察力。


「オリヴィア」

「なに?」

「君は僕の何になるの?」

「友達かしら」

「友達?」

「そう。王太子なんて友達が出来にくい身分でしょ? だから私がなってあげるわ」

「そう」


 僕はきっと彼女を友達とは思わない気がする。

 僕は薔薇園から空を見上げた。

 小鳥が飛んでいる。

 水色の空に小さな小鳥。





 まだ番外編が上がるかも知れませんが、一応一区切りの回です。

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