【番外編2 第四王子殿下へのプレゼント】
本編では第三王子殿下とオリヴィアお姉様の絡みがまったく有りませんでしたので、閑話で一本書きました。第四王子殿下の誕生日プレゼントを選ぶ第三王子殿下です。
『大好きな君へ』
いつもは出入りの商人からドレスを買っているオリヴィアお姉様が、僕を街へと誘う。一番上のお姉様はとてもお綺麗で、そして良く気が付く方だ。
僕が何か欲しい物がある時は、大概察して気を回して下さる。
だからこの時期になると、彼女は僕を城下にある帽子屋に誘う。
そこで特注の帽子を注文して下さるのだ。
だから僕はその日までに、どんな帽子が良いのか想像して置く。彼が欲しそうな物を。彼の琴線に触れる物を。そして多分、彼を包み込んでくれる物を。
今年は巻き貝の帽子にしようと決めていた。何故か彼はいつもヤドカリの縫いぐるみを持っていたから。あの縫いぐるみが彼の何かに触れているのだろう。
日常的に欲している何か?
ヤドカリの名は、『宿を借りる者』から来ている。
生まれついての家が無く、柔らかい腹部を守るために貝を日夜探しているのだ。捕食よりも余程切羽詰まっているのが宿るべき貝だというから、特殊な生き物ではある。
◇◇◇
店に着くと、沢山の帽子が僕を圧倒する。女性の帽子は色取り取りで、男性の帽子は黒やグレーが多い。僕たちは奥の個室に通されて、毎回僕の書いてきた絵を見せるのだ。そうして色や生地を決めていく。出来るだけ手触りがよく、暖かい生地を選ぶようにしている。
「全体の殻の色は、どういたしましょうか?」
帽子のデザイナーでありパターンナーの主人が聞く。
「……ブルーグレーで」
それが彼の瞳の色でとても似合いそうだったから、そう答える。
すると僕の肩にオリヴィアお姉様の手がそっと乗せられた。
彼女の紅いルビーのような瞳が僕をのぞき込む。
「模様は淡い灰みの紫色にして下さる?」
オリヴィアお姉様が僕の注文に付け加えるように言う。
灰みの紫色は僕の瞳の色だ。その色を巻き貝の模様の部分に使うように言ったのだ。
「オリヴィアお姉様?」
彼女は柔らかく微笑む。
どちらかというと長女も次女も目が大きく、吊り目がちで、きつい印象を人に与えるが、本当は優しい人だと知っている。
「きっとお喜びになりますから、そう致しましょう?」
「そうですか?」
「そうよ。人の心はそういう風に造られているの」
「………」
「キースはどんな色の宝石が好き? 私がカフスをプレゼントするわ」
そんなものは考えるまでもなかった。
僕が大好きな人の瞳の色。
「ローズクォーツで……」
オリヴィアお姉様は艶やかに微笑んだ。
「そういうことよ」
僕の上のお姉様は、大変良く気の付く人で、僕の頬が少し上気するのが分かった。
オリヴィアお姉様に隠し事は出来ません。
そういう事なのですね。
帽子三部作。だと思うことにします。




