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【百五十六話】エピローグ2 眠り姫。

 眠り続けるお姫様を『眠り姫』というのだと思うけど……。

 王子様だと、少し語呂が悪くない?


『眠り王子』

『眠れる森の王子』

『いばら王子』 


 いばら王子って……。王子がいばらでどうする?? 語呂も微妙だけど儚さ的にも微妙ね?

 その上……。寝坊を連想させるわ。

 王子様という単語から類推するイメージが、強さや、格好良さなのだが……。

 眠りと相性悪くない?


 私はベッドに眠る弟をじーっと見つめる。あれからまだ目を覚ましていない。

 もうそろそろ? と言い出してから、少し経つ。


 明日かしら。

 明後日かしら。

 三日後かしら。

 四日後かしら。


 弟は綺麗な顔をして眠っている。起きている時は、薄紫の菫の花の様な瞳をした少年だ。

 くすんだ金色の髪と、白い肌。満場一致で美少年の採決が降りるだろう。


「……キース、そろそろ起きない?」


 しかしさーー童話の中のお姫様って良く寝るわよね?

 白雪姫だって毒林檎を囓って寝ちゃうし。眠り姫だって、糸紡ぎの針に刺されて眠ってしまう。

 睡眠には神秘性でもあるのかしらね?


 私はキースの頬にそっと触れる。柔らかい……。ふわふわでさらさら。気持ち良い。

 ふわふわと撫で回した後、ついでに髪もさらさらと撫でる。絹か。と思う程の滑らかさだ。


 刺された所は傷一つ残っていない。これは精霊の持つ奇跡なのだと思う。

 医学ではこうはいかない。傷は一生残るものだ。


 魔法が持つ素晴らしさ。ウンディーネの加護。


 基本。姫とは王子様のキスで目覚めるものだけど。王子は? という話。

 国中の貴族令嬢を連れてきて、一人ずつ順番にキスさせるなんて、まったく笑えないし……。

 だからって姉妹が代わる代わる額にちゅってのもロマンが。何かさ。例えばラプンツェルのように塔に囚われたのが王子だったなら、色々問題があるじゃない?

 長い金髪は姫だから可愛いのであって、王子に窓辺から垂らされても……ね?

 それに夜な夜な忍び込むのが姫だったら、髪を梯子代わりにして塔によじ登るなんて、腕力が追い付かないんじゃないかと思う。喜劇の一つが出来上がるわ。


 私はキースの枕元に試作品のブーケを沢山並べて、眺める。

 オリヴィアお姉様の結婚式は一ヶ月後だ。広く国民に公告した後、結婚の儀が執り行われる。

 王太子という身分から、内外に広く公示する訳だけど、結婚は急遽決まった訳だし、隣国の王族は間に合わないかも知れないわね?


 まあ、それならそれで、それなりの人が代理で来るのでしょうけど。でもーー

 アッシュベリー王国に取ってはとても喜ばしい事で、国民もどこかお祭り騒ぎだ。

 今まで王太子様はご結婚には乗り気ではなく、そう言った話はのらりくらりと断っていたと聞く。

 それが、降って湧いたような結婚話。

 みんな嬉しくて、庶民達もジョッキを片手に飲み屋で盛り上がっている。楽しいわね?


「だから、キースも一緒に参列しましょうよ?」


 私はゴロゴロとベッドを転がりながら、キースの横にコロンと添い寝した。子供の頃みたい。

 そんな風にウトウトしていたら……。私はそのまま寝てしまっていた。


 昼下がりの午後。陽はとても高くて。窓辺から心地良い風。ベッドは暖かくて。午後の陽射しは明るい。

 

 自分の寝息とキースの寝息が入り混じる。


「お姉様、ミシェールお姉様。大きくなったら結婚してくれますか?」


 どこかで幼いキースの声が聞こえる。


「キース。姉弟は結婚出来ないのよ?」

「………」


 そう言うと、キースは決まって困った顔をする。


「だからね……」


 私は小さなキースの額にそっと口づけを落とす。


「私はお姉様として、ずっとずっとあなたと一緒にいてあげるわ」

「………」

「お姉様と弟は不変なのよ? 永久に変わらず家族として愛し合っていられるの」


 夜ごとに毎夜繰り返される姉弟の睦み事。楽しかったわね?あなたとの二人の時間。

 今考えれば、あなたは少しだけませていて、私は何も知らなさすぎた。そんな頃の会話。

 私は夢の中でクスリと笑うと、キースが私の手を取ってキスを返す。


「僕は何度でもプロポーズします」


 そう言って、彼もまたクスリと笑った。

 

 風が私の前髪を浚う。

 昼下がり。


 夕刻に目を覚ますと、私は意識を取り戻したキースと手を繋いで寝ていた。

 とても幸せな夕暮れ時。




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