【百五十五話】エピローグ1 ラプンツェル。
エピローグに入ります。
ミシェールの視点になります。
高い塔に閉じ込められるといえば『ラプンツェル』かしら?
私は長い螺旋階段を登って妹に会いに行く。
オリヴィアお姉様の取りなしで、地下牢から貴族牢に移っていた。
ドアは施錠してあり、見張りもいるのだが、地下牢とは比べものにならないくらい清潔で過ごし易い。この貴族牢は、第三公爵令嬢ティアナが幽閉された場所と同じだ。
ティアナが私に毒をぶっかけて、ここに囚われていたのだ。今は容疑も晴れ、外に出ているのだが……。
彼女の罪は、殺人未遂から薬を騙し取られたという罪に変わっていた。
貴族牢に入るような罪じゃない。殺人未遂とは雲泥の差だ。
どちらかというと、沢山の毒を栽培していたという方が大きな罪になる訳だが、それは全て王家預かりになるという事で落ち着いている。
つまり今の所彼女は、厳重注意、管理の徹底、情状酌量の上、執行猶予中のような状況だ。情状とは状況等を鑑み、考慮する事。酌量とは事情を汲み取った扱いをする。
そして執行猶予は、罪の償いを直ぐに執行せず、期間を決めて様子を見、その期間中、罪を犯さなければ、刑を執行しないという事だ。
前世でもあるあるの、超が付く甘々刑の代表。まあ、薬の管理をもっと徹底しろよ? 次あったら罪にするぞ。という所だ。彼女は毒の栽培地を王宮内に移し、特殊薬草の管理という、仕事をしている。新規に作った、王宮薬師、薬室部門、麻酔科特殊薬草温室管理人いというのが正式名称。ちなみに上司は一人も存在せず、部下も一人も存在しない。
正真正銘の一人科らしい。まあ、小さな温室だしね、今の所、薔薇の管理人の方がずーーーっと身分が上だったりする。薔薇とは権威も歴史も違う上に、特殊薬草って苦しい命名からも分かるように、きな臭い匂いがプンプンする、あまり表立って活動してはいけない雰囲気がする科なのだろう。
家は、離籍したまま、元第三公爵令嬢となっている。執行猶予期間が終われば戻る事も可能だが、ティアナ自体、あまり家は好きではなさそうだし、家の方も別に戻って来なくて結構という雰囲気なので、このままなし崩しになるかもしれない。まあ公爵令嬢という身分で、毎日温室の雑草を抜かれても微妙に扱いに困る。
私は最上階に辿り着き、牢番にしっかりとお菓子の差し入れをしてから、シンデレラの牢に入った。貴族用の牢なので、小さな二間になっている。シングルベッドだけが置いてあるベッドルームと応接間。その応接間にいたシンデレラが私に飛び付いて来た。薔薇の匂いがふわりとする。
「お姉様、ミシェールお姉様。大好き」
彼女は私の背中に手を回し、ギュッと抱き締める。ここに来ると彼女は決まって私を強く抱くのだ。薔薇色の頬に透き通った蒼色の瞳。綺麗な腰まである金色の髪。随分と顔色が良くなった。
手足も温かくなり、生気が戻った。
「お姉様、大好き。私を助けてくれた大好きなお姉様」
そう言って、まるで宝物を抱くように、何度も何度も私を抱くのだ。
「大好き。大好き。ミシェールお姉様だけが私を見てくれる。私の大切な大切な人」
私は柔らかい金髪を撫でる。縁あって姉妹になった私の妹ーー
「さあ、一緒にお菓子を食べましょう?」
私は持って来たお菓子とお茶を取り出す。
「今日は何のお菓子ですか?」
「今日は、あなたの好きな苺パイよ」
シンデレラが嬉しそうに笑う。私は紅茶から立ち上る湯気を感じながら、心が温かくなっていくのが分かった。目の前で妹が笑う。塔の窓からは、陽射しが入り。そして苺パイは変わらず甘酸っぱい。
「シンデレラ」
「はい?」
「あなたがこの牢に移れるよう、取り計らって下さった、オリヴィアお姉様の結婚式が決まったわ」
そう。最後の最後、心を砕いてくれたオリヴィアお姉様の結婚が決まった。
「綺麗なブーケを作るわよ。白薔薇にブルースターを添えるの」
白い薔薇の周りを、星のような水色の小花で彩る。水色は彼と彼女を結び付けた色だから、必ず入れたい。私の尊敬するお姉様。私はここでお姉様の幸せを祈りながら、一本一本ブーケを作るわ。心を込めて作ったら、お姉様に届けるわ。そうして、彼にも同じ花で作ったブートニアを。新郎の胸に付ける小さな花飾りだ。妹と一緒に。どうかーー幸せになって下さい。私のたった一人のお姉様。
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