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【百五十話】閑話1 金色のネズミ。

視点が主人公以外になります。

この話は金色のネズミです。

 父はこの国の最高位である王だった。そして母はその王に愛されている正妃。

 それだけ見たならば、誰が僕の不幸を疑うだろう?

 いや、実際不幸ではないのだ。毎日の衣食住は確保されている。

 メイドも使用人も沢山いて。僕はそれらに傅かれる立場の人間。


 けれどーー


 胸の奥がぞわぞわする。何が満たされていないのか?

 何が僕を不安にするのか? 正体すら分からないーーけれど僕は。

 けっして幸せではなかった。もしも明日、僕が死んだとしても。

 僕は決して哀しくないし。きっと僕以外の人間も哀しくない。


 そう多分。僕はこの世の誰とも心が繋がっていないのだ。

 誰の心も僕の心に触れてはいない。つまるところーー


 僕は本質的な意味で。誰からも愛されていないのだ。

 そこまで考えると、涙が吹き上がりそうになるから、急いで目頭を押さえる。


 衣食住が保証された籠の中で、僕はただ息をしていれば良いのだから。

涙は押しとどめて。

 僕は何となく、表情を作れば良い。僕が泣くと少し大事になるし。


 美味しいご飯を美味しいと。綺麗な服を綺麗だと。

 ただただ感謝して生きれば良いのだ。実際僕は、物質的な面では国で一番恵まれている。


 愛情に恵まれていないのは些末なことなのだ。

 全部が恵まれている人など、きっとこの世にはいないのだから。


 一転したのは、二歳下の弟と会った時。折り合いをつけていた感情に罅が入った。

 全てに恵まれている人間はこの世にいるのだと。知ってしまったのだ。


 彼は僕の弟で有りながら。全てに恵まれていた。

 物質的な環境も。そしてーー両親の愛情も。


 この世は残酷だと思う……。

 僕を産んだ両親でさえも、子供への愛情に差を付ける。

 この世界には、親に差を付けられた兄弟が五万といて。

 そんな現実を、受け入れる事しか出来ずに藻掻いている。


 だってそうでしょ?

 僕は何をした訳でもない。


 弟が母の体質を色濃く顕現させた。その事で。

 彼は両親から愛され、僕は愛されなかったのだから。

 僕は僕のまま、髪がプラチナブロンドに変わったのなら、きっと彼らは僕を愛しただろう。

 僕が母と同じ翠色の瞳になったのなら、きっと彼らは僕を愛しただろう。


 けれどーー

 そんなあやふやな愛なんていらない。

 髪の色で決まる愛なんて。

 瞳の色で決まる愛なんて。

 

 そんなものはいらないのだ。

 真っ黒く染まっていく心の中で。

 僕は僕だけを愛してくれる人を切望していた。


 悔しさや悲しみが体中から溢れ出しても、僕は僕を止められない。

 僕は全てに恵まれた弟に、兄弟愛だけは与えないと。

 そんな醜い誓いの中で。

 静かに狂っていった。


 

 綺麗な声でさえずる、可愛い小鳥。

 快活で聡明な水色の羽をした小鳥。


 手の中に閉じ込めて、羽を折ってしまった。

 飛べない小鳥。


 耳元で小鳥が囀る。

可愛い声で鳴き続ける。


 君さえーー

 君さえ。

 僕の側にいてくれたなら。

 

 僕は人に戻れるだろう。


 鳴き声が耳に響く。

 僕の可愛い小鳥。


 僕だけの小鳥。



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