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【百四十八話】お茶とネズミ。




「……人聞きが悪いな、オリヴィア」



 相手はどこまでも淡々としている。

 けれど、言葉の端々に表れる冷たさのようなもの。



「まるで僕が何かをするような言い方じゃないか?」


「そう?」


「そうだったよ。同級のオリヴィアでもそれは失礼だよ」


「……不思議なのよ? 私が子供の頃から大切にしてきたお人形が、無くなり始めているの」


「そうなの?」


「そうなの。……それが少し哀しいのよ?」


「……でも、人形は人形じゃない?」


「そうね。人形は人形よね?」



 二人がお茶を飲む気配がする。



「……良い香りがするわ。このお茶」


「君が好きそうだから、用意させたのだよ」


「そう。嬉しいわ」


「……どういたしまして」



 ティーカップに注がれる僅かな音。

 誰が入れているのかしら?

 オリヴィアお姉様?

 それともーー



「それで、今日は結婚の報告に来たの?」


「……ええ。それもあるわね」


「あまり嬉しくない報告だね」


「そう?」


「……普通にそうだろ。けどおかしいな? そんな報告は受けていない。分からないはずないのに……どうしてだろう? オリヴィア」


「……私の心の中でだけ決めた事だからじゃないかしら?」


「つまり、カールトン公爵も知らない?」


「……お父様も、知らないわ」


「知っている人はいない?」


「……私とあなたと、私の可愛いネズミさんだけかしら」


「……ーーふーん。随分賢いネズミなんだね?」


「賢いわね? もしそのネズミさんがいなくなったら、私はとても悲しむわ」


「……でも、ネズミはネズミじゃない?」


「……そうね、ネズミはネズミね」



 うふふとお姉様の小さな微笑が聞こえた気がした。



「オリヴィア」


「何かしら?」


「君の可愛いネズミが、人形のように無くなってしまったらどうするの?」


「……泣いて泣いて、修道院に行くわ」


「まさか、オリヴィア、君らしくないな」


「……そう? 私は情を大切にする女よ?」


「いいや、情に流されない女だよ」



 僅かに空気が動く気配。

 お姉様が席を立たれたのかしら?

 移動した?



「………大切にしていたお人形の耳を、金色のネズミさんが食べてしまったの」


「………」


「悪戯が過ぎるネズミさんでね?」


「………」


「どうしたらいいか思案中よ?」



 姉の声は同じ部屋に設えられたソファーから聞こえた。

 移動したのだろう。

 彼の声もまた、そちら側に移った。




 もうお茶はね?

 沢山飲んだことが、天井裏からも分かりましたよ。








いつもお読み頂きありがとうございます!

そして、この作品をブクマ&評価して頂いた読者様、感謝しております!

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