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【百四十四話】彼を知っている人はこの世にいますか?




 お目付役がオリヴィアお姉様に最適というのであれば、姉もまた自分が彼のアキレス腱に成り得ると気付いていた事になる。



 つまりは、私の気のせいではなく、事実彼女は彼のアキレス腱だという事だ。

 しかしーー

 もちろん自称ですが(笑)



 この姉に惚れる人かー……。



 私は羽扇を仰ぎながら、優雅に微笑む姉を見る。

 例え王族である第二王子様がいてもこの不遜さ。



 マジで凄くない?

 私とは器が違うというか……。



 この人を一度嫁にしたならば、間違い無く尻に敷かれるというか……。

 むしろ敷かれることが前提というか……。



「ところで第二王子殿下とミシェールは彼の事をどれくらい御存知なのかしら?」



 ……彼か。

 彼がどこの誰だかは説明していない。



 ということは姉は僅かなヒント。

 第二王子様が言った

「あなたに惚れている男性」

 という言葉と、私達が会って欲しいと言った状況だけで理解した事になる。


 普通辿り付けないわよねー。

 オリヴィアお姉様には動物並みの嗅覚があるのかしら?


「彼の性格が歪んだのは、色々な事情が複合している訳だけど、それは理解していて?」


 歪んでるって。

 歪んでるだって(笑)


 なんの躊躇もなく言い切るから、大笑いだ。

 歪んでますよね? 実際。

 私もそう思います。


「長男であり、本来は全てを継ぐものとして、優遇される立場である彼が歪んだのには、意外に人の本質として真っ当な理由があるのよ?」


「つまりはお姉様は、彼が歪んだのはありがちな理由だと」


「まあそうね。子供ってね無意識に親を求めるものなの。自分の産んだ人への強い愛着と思慕」


 それはまあそうだと思う。

 当然本能に組み込まれた一部だ。


「でも、現実には様々な理由から、子供に心を傾けない親がいるのも事実だわ」


 そういう親もいるだろうと思う。

 親の数だけタイプがあるのだ。



「よくある理由として存在するのが兄弟。兄弟がいるなんて一般的で大多数の事だと思うでしょ? 親もね大概言うものよ? 『兄弟が出来てよかったね』と。でも上の子にしてみればそんな単純な問題じゃない。下の子が生まれて、どれだけ不安と苦しさに苛まれるか……」


 長女である姉は言った。

 つまり、あなたも苛まれたのですか?

 私が生まれた時に?


「私は四人姉妹の一番上だったけれど、次女のミシェールが生まれた時は、二歳だったわ。ミシェールは小さくて、当然一番に優先して守られるものになるところだった」


 え?

 つまりならなかったって事?


「でも、母は比較的母にそっくりだった私を一番に可愛がったの。妹が生まれてもね。そしてまだ何も分からない赤ん坊の妹は、お祖父様とお祖母様と男爵家の皆がそれはそれは可愛がった。なので愛情の所在地がハッキリしていたため、私もミシェールもそれなりに恵まれて育ったわ」


 えー……。

 確かに私はお母様には一番って感じじゃなかったわね?

 でも、そう、お祖父様の存在。

 お祖父様の事は、今も昔もこれからもずっと大切だわ。


 私が何をしても、お祖父様はきっと助けて下さる。

 それが自分の人格の安定に繋がっているといえば、繋がっているのかも知れない。


 そして、お祖父様の一番は私だ。

 姉じゃない。

 それが私の矜恃でもある。


 確かに愛情は結果的に担当制になっている。

 家によっては、母親の愛情を分散させるパターンもあるだろうけど。


「彼の家はね、お母様が長男を産んだ時、ある期待をかけていたの。しかし期待は裏切られた。長男は父親に似ていて、母親の潜在的性質は受け継がなかった……」


 確かに髪も目もお父様譲りだ。


「だから、次男が生まれた時は歓喜したらしいわ。『これで大丈夫。この子がいればもう平気だ』と。そして困った事に、父親も母親そっくりの次男を溺愛した」


「………」


「ここでね。父親が自分にそっくりの長男を愛していれば、結果は違っていたのかもしれない。でも、そうはならなかった。父親は美しい妻に似た子を溺愛した」


 愛情とは直感でもある。

 理由などないのだ。

 好きだから好き。


 バランスを考えて、長男は自分が愛そうだなんて、愛情に算盤は弾けない。


「彼は二歳の時から親の温かな愛情を受けていないのよ? そして彼にとって面白くないのは次男の存在。両親からちやほやされ、全ての人の愛情を根こそぎ取っていく次男」


「…………」


「屈折してしまったのね? だから彼は思った。せめて自分だけは彼に絶対に愛情は注ぐまい。彼の人格の一部を壊してやる」


「………」


「彼は、次男に事あるごとに辛く当たった。そして陰湿に嫌がらせをした」


 オリヴィアお姉様の羽扇が揺れる。

 揺れた先に第二王子様がいる。


 彼はオリヴィアお姉様の話を静かに聞いていた。


「次男は確かに彼のお陰で幸せの一部を失った。彼の嫌がらせの一部は確かに届いたのね……」


「………」


「カールトン公爵家を巻き込んだ、この壮大な兄弟喧嘩の不始末を誰が払いましょうか?」


「………」


「カールトン公爵家だけが払うなんて、納得出来ないわよね?」


 そう言って、姉はうふふと可愛らしく笑った。

 この笑いは、魔王というより魔王の娘といった所ですかね?


 妙に色っぽいです。



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