【百四十三話】姉の心の内。
前世では『たわけ』という言葉があった。
まあ、『この馬鹿者!』というような意味だ。
『たわけ』とは漢字で『戯け』と書く。
けれど由来の一つには『田分け』という漢字もある。
今の法律では、兄弟の遺産相続というのは等分分配だ。
きっちりかっちり人数で割る感じ。
二人なら半分に。
三人なら三分の一ずつ。
配偶者が半分取った後、兄弟で等分に分ける。
もちろん昔、日本で言うと戦前。
そして中世ヨーロッパでもけして等分分けなんかしていない。
それはこの異世界でもそうだ。
公爵家の領地をお母様の分、兄弟四人の分と分けてしまっては、もう公爵家とは言えない。
男爵家か? という量よね?
三代もすれば庶民と同等まではいかなくても、裕福な農民くらいになってしまうのではないだろうか?
故に、田を兄弟分割する者を『たわけ』と呼んだとか……。
平等性に欠けるが、権威の維持とはそういうものなのだろう。
私だって孫の代になったら、公爵家がなくなっていましたなんて、ちょっと寂しいかなと思う。
それはもちろん王家でも同じ事。
王家所有地を王、王弟、王妹等と分けたりはしない。
あくまで補佐だ。
王の補佐に従事する。
そして側妃様の御子は、公爵として王家を支える。
公爵家は公爵家なのだが、王子の心持ちとしては王家が本家だ。
いわゆる分家意識だ。
そういう身分の人間が、定期的に有力貴族になる訳で。
王家の力が貴族中に内側から張り巡らされている。
確かに盤石ね。
第三王子降下の裏にはそんな規模の王家の権力維持が存在しているのね?
だから。
王家はカールトン公爵家を潰さないと。
既に事実上王家の間接領地になっているものを潰すと、王家に得など一分もないという訳だ。
「お姉様はカールトンの血を残したいのですね?」
「……そうね」
「つまりは、お姉様とキースが婚姻を結び、公爵家を継ぐと」
そうなるわよね?
三女のシンデレラは公爵の血を継いでいない。
長女か次女の中に受け継がれているのだとしたら、キースと結婚出来るのはお姉様しかいない。
「それも選択肢の一つね」
「お姉様とキースはそういう関係になれそうな間柄だったのですね」
「……徹頭徹尾姉と弟よ」
「…………」
えー……。
今、そういう方面に誘導したのはお姉様では?
「ミシェール」
「何ですか? お姉様」
「私は貴族の子女です。感情で婚姻は結びません」
「…………」
「どちらがより得かで、婚姻を決めます」
「………」
……お姉様。
その台詞…端から聞いていると、あなたこそ悪役令嬢にピッタリだと思ってしまうのは、私だけではないと思います。
「……けれど、あの男を野放しにして置いては国の危機です。目付役が必要なのも事実」
「………」
「そして、私が目付役に最適なのも、また事実です」
………。
お姉様。
マジで凄い自信です。
しかも国の未来って。
あんた男ですか?
『男』ですよね?
その思考回路。
「では、オリヴィア、話を受けてくれるのだな?」
第二王子様が改めて問うと、オリヴィアお姉様は悠然と微笑まれた。
「そのお話をお請けすると、事実上、殿下は私より身分が下になりますよ?」
魔王のように、不遜に微笑まれる。
「もちろん、オリヴィア姉上。元より承知していますよ?」
第二王子様も、また優雅に笑みを返すのだった。
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