【百四十話】未成熟な君へ。
第二王子様とオリヴィアお姉様の話はなかなか長かったので、私は昼間に会ったシンデレラの事を思い出していた。
ブランチ後にシンデレラに会いに行ったのだ。
毛布や食べ物等の差し入れを持って……。
あの地下牢の階段を降りようとすると、なんだが怖くて足が竦んでしまう。
本来は令嬢の私が足を踏み入れる場所じゃないし。
一生縁がないような場所の筈なんだけど。
明日も明後日も通いそうな気がするわね?
牢番とも仲良くなりそうな勢いだし。
という事で、牢番にも抜かりなく差し入れしたわ。
ええ。
懐柔って大切よね。
もしもの時は、何か教えてくれるかもだし。
シンデレラの待遇が変わるかもだし。
まあ、逆効果って可能性も存在するが。
そこまで考えていると何も出来なくなってしまう。
最初はストレートに、様子を窺うに限るわ。
最奥に進むと、そこがシンデレラの牢屋。
最奥っていうのは、一番刑が重かったりするのだが、この場合は一番身分が高いという割り振りなのではないかと誤解してしまう。
ええ。
彼女殺人未遂ですから。
殺人者よりは刑が軽い筈だけど。
しかし相手が王子様なので、その部分で刑が重いと判断されるのだろう。
「シンデレラ、ご機嫌よう」
「お姉様、ミシェールお姉様」
彼女はやっぱり走り寄って来た。
幾分やつれている。
これ、なんとか塔の方に移して貰えないかしら?
塔は塔で、冬は寒くて夏は暑い場所なのだけど。
他の囚人が近くにいないので、大分気が楽だし、あっちの牢は貴族用。
私の出入りが大分精神的に楽になる。
ただ肉体的には大変そうだけどね……。
塔の天辺って……。
体力がさー……。
でもまあ、鍛えられるかしらね……。
「お姉様、明日は白いお花を持って来て下さいな」
「どうしてよ?」
「どうしてって、お姉様のブーケを作るのではないですか?」
……ブーケって。
気が早くない?
私が結婚式に持つブーケよね?
フィル様年表だと、私達が結婚するのは四年後よ?
しかもデキ婚。
デキ婚予定って。
……私ったら天下の公爵令嬢なのにー(笑)
って笑ってる場合じゃないんだけども……。
つまり、今作ったって枯れるわって話だ。
フリージング技術でもあればいいのにね?
「シンデレラ、私達が結婚するとしても、まだまだ先よ?」
「………でも」
シンデレラは少し言葉を詰まらせると、私の手を握り締めて、大切そうに自分の頬に当てた。
「……大好きなミシェールお姉様に伝えたい事があるのです。私は口下手で上手く伝えられないから、だから………」
「………」
「伝えたい事があるのです。……一日も早く。私はこの先、どうなってしまうか分からないから……伝えたい。伝えないときっと後悔するから。だから、ブーケを作らないと……」
「……何を伝えたいの?」
彼女の頬に添えられた私の指に熱い何かが触れる。
「……伝えたいの。伝えたいの。言葉では伝わらないから。お花を、お姉様の大好きなお花を紡ぐ時に、一本一本に願いをかけて、お姉様の元に届けるの」
「………」
「……そうしたら、きっと伝わるわ。私の心がミシェールお姉様に。きっと伝わる」
シンデレラの涙が、私の指先に伝う……。
「お姉様、間違えないでね。あの森の白い小花と温室の白薔薇よ?」
「………」
ええ。
間違えないわ。
私の大好きな花だし。
あなたともよく一緒に摘んだものね……。
私は湿っていく手の感触を感じていた。
そんなに泣かないで……。
私の妹。
私の胸も燻って行くから。
地下牢でひとりぼっちで震えている私の妹。
七年前、私はあなたのお姉ちゃんになったのよ?
妹に泣かれると……。
心配で胸が痛くなる……。
明日、花を持って来るわね。
私のひとりぼっちの妹へーー
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