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【百三十六話】全ての人間が、あなたのように明晰ですか?          




 昨日の夜とは打って変わって王宮は静まり返っていた。

 ダンスパーティーをしていた賑やかさが嘘のようだ。

 本来、夜は静まり返っている場所なのかも知れない。



 豪華絢爛で。

 沢山の人が集まり華やいでいたのは刹那の時。



 私は、以前にも姉に会った王宮のラウンジにいた。


 姉は既に正装をしていた。

 正装と言っても非公式なお食事会だから、そこまで豪奢なものではないのだけど……。


 何か紫色の妖艶なドレスを着てますよね?

 光の差し方によっては紅色に見えるような、光沢のあるドレスです。


 姉は私と違って、かなりスタイルが良く、胸もしっかり強調されている。

 柔らかいマシュマロには見えないが、なんというかサキュバスには見える。


 むしろサキュバスそのもの?

 取って喰われそうな勢いの女性だ。



「ミシェール」


「はい。お姉様、何でしょうか?」


「昨日は第二王子殿下と正式に結ばれたということで、良いのかしら?」


「…………」



 食前に冷や汗が出そうな質問ですね?

 というか給仕の人間がいるんですけど。

 みんな聞き耳を立てていますけども……?  



「……まあ、お姉様ったら、オホホ」



 意味の分からない返事になってしまった。

 オホホって。

 苦しー。



「あらあらあら。そうなの、ウフフ」


「…………」



 えー……。

 なんですか、ウフフって。



 どっちに取ったんだろう?

 私の一挙手一投足がヒントなのだろうから、これ以上墓穴は掘れないわよね……。



 などと言っているうちに第二王子様の来室を告げる合図があり、私達姉妹は立ち上がって頭を垂れる。



 入室の気配があり、声を掛けられるまではそのままの姿勢でいる。



「カールトン公爵家のオリヴィアだな。急な食事会になってしまったが、妹共々寛いで行ってくれ」


「本日はお招きありがとうございます。素敵な時間を設けて頂き感謝致します」



 姉は更に深く頭を下げたので、私も習って下げる。

 なんだか第二王子様に対して、ここまで恭しい遣り取りは初めてかも知れない。



 私達は同級生だったので無礼講だったのかも知れない。



 第二王子様が席に着いてから、私達もゆっくりと腰を下ろした。



「本当はこの席にもう一人呼びたい人がいたのだが」


「まあ、誰でしょうか?」


 取り敢えずルーファスが軽くジャブを入れましたよ?


「誰だと思いますか?」


「第二王子殿下、ヒントがなくては答えるのが難しくてよ?」


「そうですね、オリヴィア。では一つヒントを。あなたに思いを寄せる沢山の男性の一人と言ったらどうですか?」


「お上手ね? 私に思いを寄せる男性なんて想像が付きませんわ?」


「またまたご謙遜を。沢山いらっしゃるとの噂を聞いています」


「うふふ。噂は噂ですわ。昨日のダンスパーティーでも特定の男性とは踊っていませんのよ? 第二王子殿下こそ、王女殿下とのファーストダンス素敵でしたわ。私もそしてあの場にいた沢山の人達も第二王子殿下のご婚約相手は王女殿下なのではないかと思いましてよ」



 涼しい顔をしてボディーブローが来ました!

 ですよね? 

 そう来ますよね?



「それが今日になってこの招待状が届きましたでしょ? あらあら、おやおや、どうした事なのかしらと思った次第よ?」



 ルーファスは涼しい顔でフフフと笑った。



「あれは効果絶大でしたね。フィラル国に留学する事を内外にお知らせする為に、王女と踊りましたが、女性として共に歩みたいのはミシェールですから」


「まあ。惚気ですわ」


「惚気ですかね?」


 そのまま、うふふ、あははと二人は葡萄水なんか飲みながら談笑している。


 なんだろう。

 この腹に一物有りそうな人間同士の会話は。

 全然進んでなくない?



 とっくに人払いはされているのだが。

本題にはなかなか入りません。



 でも私、小物過ぎて入れる空気じゃないのよね?

 立場的にもちょっと難しいというか……。



「第二王子殿下、昨日は大切な弟君が私の愚妹により傷つけられました……。お呼ばれした席で申し訳ございませんが、今この場で謝罪させて下さい」



 そう言って、姉はもう一度頭を下げた。



「お預かりしていた弟君を危ない目に遭わせるなど、有ってはならない事。申し開きのしようも御座いません」



 驕慢な姉でも、ここまで頭を下げるのかと思う程、真摯な謝罪だった。

 姉という人間は、大層偉そうな人間なのだが、場所を弁えているタイプのようだ。



 まあ、私も母も結構場所は弁えるタイプかも知れない。

 どこかしこで威張り散らしていたら凋落するわ。



「もう一人の妹ミシェールがどこまで第二王子殿下のお役に立てるか分かりませんが、二人の関係を全力で応援させて頂きますわ」



 姉のしっとりした声が響く。

 大人っぽい艶やかな声。

 


 やったー!

 オリヴィアお姉様の言質が取れた。



「お姉様、ありがとうございます。お姉様が味方に付いてくれたら百人力です」



 私はここぞとばかり調子に乗ってしゃべり出す。



「それでですねお姉様、シンデレラの事なのですが」


「お黙りなさいミシェール。あの汚らしい女の名前を口にするのじゃありません。既にカールトン公爵家では朝一で除籍にしました。今後一切彼女は我が家には関係のない人間です。今後犯罪者の名を口にする事、この姉が許しません」


「…………」


 えー………。


 取り付く島なし?



「我が母から、無理矢理父を奪った女の娘は、私の大切な妹と弟に手をかけました。万死に値します。煮るなり焼くなりして下さい」



 大切な妹って……。

 私の事ですか!?

 初めて聞きましたよ、お姉様!


「オリヴィア、君の血の繋がった妹だろう」


「建国より王家と共にあるカールトン公爵家の血を色濃く継いでいるのは、長女の私とここにおります次女のミシェールです。私達が生まれてまもない頃、父と同じ金髪をしたとても見目麗しい役者がいたそうです。貴族でも内々で後援していたものは沢山いらしたとか?」


「ほう……。その噂は良く聞くな?」


「ええ。わりと有名です。けれど後援していたのはエアリー男爵家の娘ではなく、前公爵夫人というのが真実ですが、その部分は噂からスッポリ抜けております」


「……確かに」


「それは意図的に操作された噂だからです。噂雀を使い工作したり、時には真実を知る者を殺したり、ある一人の女性の『恋』というものが、随分と血生臭い事件になって行ったようですわ」


「……興味深いな」


「ええ。とても興味深いですわね。ある一人の女性の『恋』の在り方は、ある一人の少女の『恋』の在り方にとても良く似ている。怖いくらいに透過されている」


「………」


「そのある一人の女性には一人の娘がおりました。夫は家に寄りつかず、夫婦関係は端からありません。女性は来る日も来る日も一人娘に言って聞かせるのです。恋をしたならば。素敵な恋に生きなさいと。好きになった男性はきっと自分にとって特別な男の人だから、あなたを世界で一番大切にしてくれる。大きくなったら恋をしなさい……」


「………」


「来る日も来る日も素敵な恋語りが続いたのです」


「………」


「やがて一人の女は娘の目の前で壮絶な死を遂げたそうです。報われない恋心を自分の体にぶつけるように、何度も何度も自らの皮膚を切り裂いたとか……。少女は一人残されました。けれどーー彼女には『恋』という母親が残してくれた大切な大切な思い出があったから。いつか……素敵な男性に恋をする。男性は少女をそれはそれは可愛がってくれる。甘くて温かくて素敵な恋」





一話では書き切れませんでした……。

明日に続きます……。



いつもお読み頂き、ありがとうございます。

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