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【百三十五話】吸血鬼の胸に楔を2。





 私達はもう、その姿のまま倒れるように眠り、昼下がりまで寝ていた。



 ええ。

 王子様付きのメイドは来ませんでしたよね?



 この時間まで来ないなんて事は有り得ないので、つまりは王子様本人から事前に含みあったと。そういう事です。



 無駄に心配するからさー。

 私にも事前通告して欲しいと切実に思う。



 お昼の暖かい光が差し込む頃、ふわふわのベッドから起き出して、身支度を調える。



 ここまで高貴な身分になると、身支度自体メイドがやってくれるものなのだが、身支度という程の身支度ではなく、衣服を整えるだけ。



 その後は部屋に戻り、本格的に身支度を調え、私の部屋で一緒にブランチを取る事にしていた。

 朝昼兼の食事と言えば聞こえが良いが、普通に作戦会議みたいなものだ。



 オリヴィアお姉様は私のお姉様なので、会う事に許可なんていらない。

 招待状を届けるだけだ。



『今晩、私の婚約者をお姉様にご紹介します。お食事を一緒に致しませんか?』



 それだけ。急も急だが家族にそこまで気を使う必要もないだろう。

 冷静に考えれば、姉と妹がご飯を食べるだけの話。



 運ばれてきたブランチはクロワッサンと紅茶。苺ジャムと生ハムだった。

 前世でも有り得そうな普通にお洒落なランチだ。



 おいしそう。

 クロワッサン。

 この異世界にもあるのね?



 パン生地とバターを平らにして交互に挟んで行くのだが、バターの量が半端ではない為、とても贅沢な食べ物だ。


 その上、この世界には電気オーブンもガスオーブンもないので、直火オーブン。

 直火は当然火力の調整が難しいのだが、善くぞここまで焦げずに出来た! と拍手喝采を贈りたい。

 バターとは油なので大変焦げやすい。

 クロワッサンは、層にして重ねた生地を丸めて焼く訳だが、火が入るとバターの層だけが溶ける。

 その溶けたバターがパンの層と層に空間を作りながらパン生地の表面に付着する。一層一層を油でコーティングすることによってカリカリに仕上げるのだ。



 嬉しい。

 幸せ。



 食文化が高い事って、イコール幸せに繋がるわよね?

 刹那的な幸せなのだけど、大切だと思う。



 これを食べ終わったら、シンデレラに会いに行こう。

 沢山差し入れを用意したから、使用人を一人連れて。

 あの地下牢にまた行こう。



 私もルーファスも、海洋王国フィラルに留学が決まっているから、そんなに悠長にはしていられない。



 私は目の前で綺麗な造作で食べている男の人を見た。

 まるで絵に描いたようなテーブルマナー。


 私も公爵令嬢だから、それなりには優雅に食べられるのだが、彼もまた王族なので子供の頃から厳しく躾けられたのだろうと思う。


 目が合って微笑まれると、私は頬が紅くなる。


 私達ったら、こんな陽射しが降り注ぐ王子宮の一角で、なんで一緒に食事をしているのかしら?

 同じ食卓に着いて、同じ物を食べて、目が合ったら微笑み合う。


 ちょっとくすぐったいわね。

 くすぐったいのよ?



 昨日の夜はあんなことまでしたのに。

 ……あんなに、肌と肌が触れ合ったのに……。


 今はこうして、一緒に食事を取って笑っている。



「ミシェール」


「何?」


「このパンがお好きなら、もっと頼みましょうか?」


「うーん。好きだけど、そこまで沢山は入らないわ」


「そう?」


「うん」


「……ミシェールは痩せているから」


 確かに。

 私は痩せすぎよね?


 美味しいんだけど。

 一口一口ゆっくり食べて、やっと一個が限界。



 前世で言うところの摂食障害か……。

 そこまでは行っていない気がするけど。



 胸もさー。

 寄せて寄せてグッと上げたい所だけど。



 背中にも脇にも肉ないのよねー。

 シンデレラみたいにふっくらとした丸い胸って柔らかそうで憧れる。

 触ったらマシュマロみたいに蕩けそうで気持ち良さそう。



 一緒に温泉に入って、一緒のベッドで寝てみたい。

 あの胸を枕にしたいわー。



「……ねえ、ルーファス」


「なんですか?」


「ふっくらとした丸みのある胸に憧れはないの?」


「…………」


 なんとなく口を突いて出た質問だったのだが、ルーファスが固まってしまった。


「……女性の胸の話ですか?」


「そうよ? 具体的に好みはないの?」


「…………」


「丸くて、柔らかそうで、ふわふわしてて、私はそういうのに憧れるのだけど」


「……ありません。そんな憧れ」


「ないの!」


「ないです」


「なぜ?」


 私が男だったら丸くてふわふわ派だ。

 もしかしなくとも、私がキースの立場だったらシンデレラ一択だったかも知れない。


 私はシンデレラ派なんだ?

 見ているだけで眼福だものね。


「……何故と問われても困りますが、ミシェールが好みなので、ミシェールの胸が好きという流れでしょうか?」


「…………」


 私の胸ねー。

 こんなにつるっつるなのに?


「そういう精神的なものではなくて、好みよ好み」


「別に精神論で言っている訳ではありません。ミシェールの胸が好みというのが結論です。ミシェールの胸がふわふわならふわふわ好みになり、慎ましかったら慎ましいのが好みになる。ミシェールの胸というものが基軸になるという事です」


 え……ーー。

 後付けみたいな好みなのね……。


 私達、作戦会議の前に、どうしようもない前話しちゃったわね。

 もう私の胸の事は忘れて下さい。

 昨日触れそうな距離だったから、めちゃくちゃ感触がリアルなのよね?


 私はふわふわ派。

 第二王子様はなんでもオッケー派って事にしておきます。


 しかしーー

 基本、悪役令嬢って胸有るのに………。

 残念よねー………。


 第二王子様。

 あなたの手の感触が、体に残っています。


      


     

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