【百三十話】夜明け前。
現代中学生、高校生をしたならば。
一度は通る道だと思う『夜明け前』。
文豪島崎藤村を代表する長編小説。
しかしさーー
こういう近代文学というのは、中学生や高校生の時に、読めや読めや勧められる訳だけど………。
図書館司書ながら思うこと。
思春期の不安定な時期に読ませると鬱にならね?
常々。
常々思って折りました。
ええ。
近代文学とは。
イコール鬱牽引作品。
とってもね。
とっても素敵な作品なのよ?
だけどさーー……。
人間の綺麗さと汚さと、強さともろさと、優しさと非道さを全てぎゅっと詰め込んだような部分があるからさ。
人間ってーー……。
と思っちゃうのよね?
そうでなくとも、何か融通の利かない潔癖な世界に生きているのが思春期な訳で……。
一言で言うと。
傷口に塩?
ちょっと違う?
それで『夜明け前』じゃないけれど……。
私達も。
今、まさに夜明け前みたいな。
実際問題現実そのまんまに夜明け前だ。
カーテンの外は、真っ暗なのだが、十二時の鐘が鳴ってから、大分経っている。
そろそろきっと、夜が明ける。
時勢とかそういう高尚な夜明け前じゃなくてね?
小説の『夜明け前』は、明治維新とそれに伴う、精神とか色々な物を伴った夜明け前なのだが。
そういうんじゃなくて。
普通に夜明け前ね?
でも。
なんで今、この小説を思い出したのかな?
と思うと。
主人公の青山半蔵。
島崎藤村の父親である島崎正樹がモデルと言われている。
彼は晩年。
発狂した。
国学に陶酔した理想家だった訳だが。
発狂して、座敷牢でなくなるのだ。
考えたくないけれど。
私はこのタイミングで、この作品が頭に擦った訳。
それが少し、胸を痛くする……。
ベッドの上の私は薄着。
おいおいという状態だ。
コルセットは苦しいので、そうそうに脱いだ。
つまりは私の身に付けているものは、ドレスの下に来ていた薄着。
少なー。
ルーファスはというと、絹のようなブラウスとズボン。
マントは牢屋で既に取っていたし、上着も脱いでいる。
私達がベッドの上で一晩中何をしていたかというと、本気で勝負をしていたのだ。
その結果。
私は薄着姿という事になる。
スースーします。
何?
何なの?
「ミシェール、とうとう後二枚だね?」
「あらあらあら、女性の下着は意外に奥行きが深いのよ?」
はったりです。
真実二枚です。
どうしよう?
でも、そろそろ私も彼も大詰めなのは確か。
「ミシェールの願い事は?」
「…………」
私は夜中じゅうずっと考えを巡らせていたのだ。
ずっとずっと。
シンデレラの事。
彼女は自分がした事の責任は取らなければならない。
当然ーー。
無傷ではいられない。
公爵令嬢は正式に離席。
死刑か。
奴隷か。
でもーー
国外追放と。
修道院送り。
この二つに持ち込める可能性もゼロじゃない。
国外に送った所で、何が起こるか分かったもんじゃないので。
一番無難なのは修道院に送って、そこで永久幽閉だ。
いわゆる。
座敷牢と同じ事。
一部屋を牢にするのだ。
もちろん、普通の修道女とは違う。
外に出られない。
完全な監禁だ。
それでもーー
死刑より。
奴隷より。
地下牢より。
良いはずだ。
ギリギリライン。
ここを目指して見るのは有りだろうか?
「ルーファス、最後のお願いよ?」
もう、牢屋への差し入れは沢山勝ち取った。
だから薄着姿なのだが……。
それ以外の私のお願い。
夜中じゅう考えた、私の結論。
「会わせてもらいたい人がいるのよ?」
そう。
私は会いたい人がいる。
もう一度。
それが考え抜いた結果だ。
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