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【百二十六話】思い出の中の妹。





 初めて妹と出会った時、あまりの可愛さに、目が逸らせなかった。

 本当に生きている人間? とも思った。



 それくらい彼女の美しさは規格外だったように思う。

 そして、その美しさは彼女の性格にも起因しているのではないかと思い始めたのは、いつの頃だっただろうか?




 ◇ ◇ ◇




「シンデレラ?」


「何ですか、ミシェールお姉様」


「今日は、森で野イチゴを摘むから、バスケットを持って着いて来てくれるかしら」



 年子の妹は、今年出来たばかりだった。

 可愛い子だなと、度肝を抜かれたものだけど、時と共に大分慣れた。



 可愛いは可愛いかったが、妹は妹。

 年子だろうが、三歳差だろうが、私がお姉様だ。



 つまりは私の方がちょっぴり年上。

 人生経験もちょっぴり上。



 なので、私は大変お姉様ぶっていた。

 妹のシンデレラも別に反発はして来なかったし、私も態度を改めたりはしなかった。



 そういう意味では弟と同じ対応だったと思う。

 つまり、上から目線?



 二人で領地内の森に入る。

 入って直ぐの所に素敵な花畑が広がっていて、私はなんだか無性に花が摘みたくなった。



 でも、苺パイも食べたい。

 花束も欲しいけれど、甘酸っぱい苺パイも食べたいのだ。



 九歳の少女の小さな我が儘。

 けれど、私は一人じゃないし、家来のように従順な妹がいるし。



 これが三歳年下の弟だったら、そんな事は言わなかっただろう。

 さすがに、六歳児じゃ可哀想だという頭は働く。



 でも一歳下なら、そんなに下だと感じない。

 都合が良いところで、同年代扱いが出来るのが、年子の良い所。



「シンデレラ」


「なんですか? ミシェールお姉様」


「私、食卓を彩るお花をここで摘むから、あなたは野いちごを摘みに行ってくれる? 百個を数えるまで帰って来ちゃダメよ?」



 姉って何だろうね?

 妹の使い方凄いよね?



「あなたも苺パイ好きでしょ? だから百よ?」



 そう言って、私と妹は別れた。



 そのうち、雨が降って来たり、暗くなって来たりで、私はとっととお屋敷に戻ったのだが、夕刻、シンデレラがいないことに気付いた。



 アレ?



 彼女、まだ帰ってないの?



 召使い達も慌てたし、私も大いに慌てた。

 何と言っても元凶は私なのだから。



 家の者に、「シンデレラには苺摘みをお願いした。森にいるはずだ」と言い残して、私も準備をしてから森に入る。



 こういう一大事の時でも、私はしっかり準備するタイプで。

 まあ、そつの無い性格だ。



 私はランプの明かりを頼りに、森の中へ進む。

 公爵家の庭師を三人、公爵家の護衛を二人連れて、総勢六人で入った。



 マジで、自分の安全はしっかり確保していたのだ。

 いや、九歳女児がこんな夕刻に一人で森に入るとかないから。



 いつもの野苺摘み場の少し奥で、シンデレラは直ぐに見つかった。



「シンデレラ? あなたまだ苺を摘んでいたの? もう帰りましょう?」


「でも、お姉様。まだ七十七しか摘めてないのです。だからもう少し頑張らないと百には届きません」



 私は大いに呆れた。

 良いじゃないか、百には届かなくても。

 もう充分だ。



 こんなに真っ暗な中、苺だって見えやしない。



 そうは思ったのだが、雨なのか夜露の所為なのか、濡れてしまったシンデレラにそんな無神経な言葉を掛ける訳にもいかず、私とシンデレラとそれに付き合う羽目になった大人五人で、高速で残り二十三個の苺を集めて帰路に就いた。



 バスケットは庭師に持ってもらい、私はシンデレラと手を繋いで歩いた。


 冷たく小さな手だった。

 昼から摘み始めて、彼女は一人で半日も摘み続けた事になる。



 マジか。



 摘んで来いと言った相手だって、百なんて数えないだろう。(面倒なので)

 そういう事考えないのかな?



 もしも百を数える相手でも、「雨が降って来たから」と言えば、許される相手かどうかの判断は八歳児でも出来そうだが。



 ちなみに私はお嬢様であるが、九歳までは男爵家育ちなので、結構融通が利くタイプだ。



 というか。

 雨の中、苺を摘ませるような鬼じゃない。



 多分。

 そこまで無理に摘ませる人間は、摘まないと困る何かがある。



 旦那様に叱られる。

 自分の評価が落ちる等。



 私は使用人ではないので、そういった事はないのだ。

 故に、鬼になる必要がない。



 少し考えれば、そういった絡繰りは分かりそうなものだが。

 私が育った男爵家の人間は、そういう事を高速で算段する。



 私もオリヴィアお姉様も母もそうだ。

 新しく出来た妹は、全然違う人種に見えた。



「ミシェールお姉様」



 シンデレラが私の手を握りながら、顔を上げる。



「これでおいしい苺パイが食べられますね?」


「……そうね」


「楽しみですね」



 八歳の彼女は、屈託なく笑った。



 天真爛漫な子だと思った。

 そして、人の言葉を言葉の通り受け止める。



 ある意味素直で。

 ある意味、考え方に整合性がない。



 不思議な子。

 これはオリヴィアお姉様に嫌われそうだなと思った。



 オリヴィアお姉様は知的で頭の回転が良く、典型的な頭脳派だ。

 一を見れば十を理解するあの姉が、一を見て零点一くらいしか理解しない、シンデレラとどうやって仲良くするのかしら? 



 ちょっと想像が出来ないわね?



 でもーー



 オリヴィアお姉様だって、苺パイはお好きだから。

 きっと彼女も喜んで食べるだろうと思った。




 ◇ ◇ ◇





   

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