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【百二十五話】委ねられた命の行方。




 ここは薄暗い半地下で。

 明かりと言えば、天井の境目にある窓から、僅かに入るばかり。



 小さな窓には鉄格子が嵌まっていて、冷たい夜風が僅かに入って来る。



 牢屋って、寒いのね。

 外の空気を遮る物がない。



 僅かに夜着くらいだろうか?

 初めて知ったわ?



 シンデレラの、冷たい指先に触れて。

 初めて知った。




 私の妹には不釣り合いな場所だと思う。

 彼女は生まれた時から、公爵家の令嬢で。



 薔薇色の頬と、流れるような金髪。

 誰もが振り返る程の美少女だ。



 奴隷商だったら、いったいいくらお金を積むのかしら?

 価値は計り知れない。



 卑猥な言い方をすれば、彼女を欲しがる人間は五万といるのだ。

もしも高額で奴隷商に引き渡されたらーー




 彼女はーー


 自分の意志では生きる事が出来なくなってしまう……。

 苦痛に自我を殺して生きるしかない……。



 公爵令嬢の私にだって、それくらいの現実は想像出来る。



 ーー私は……。



 シンデレラの頬は、今は寒さからかなのか、それとも恐怖からなのか、蒼白になっている。



『お姉様、助けて下さい』って。

 どうしてその言葉を、私の愛馬に薬を盛る前に言わなかったの?



 ただ一言。

 ほんの一言、言ってくれたなら。

 私は何の迷いもなく助けたのに。




『第三王子様であるキースが好きなの』と。

 その一言を言ってくれたなら。

 何か方法を一緒に考えたのに。




 何故、手を伸ばし、すがる相手を、殺そうとした?



 一度目は、私の大切な愛馬に薬を盛って。

 二度目は、夜中の寝室で。

 そして三度目はパーティー会場のテラスでーー




 三度も。



 そう三度も、私を本気で殺そうとした。



 私は長いショールが取られて露わになったシンデレラの首筋を見ていた。


 そこには彼女に似つかわしくない青黒い痣が出来ている。

 随分と、大きな痣。



 あの日の死闘が思い出される。



 今となっては滑稽な。

 実の妹との死闘。




「……痛かった?」



 私は彼女の首筋に手を伸ばし、そっと触れる。

 囚人服は首元が空いているから、包み隠さず全てが見える。



 見通しが良いのね?

 色々と。



「……大丈夫です、お姉様。痛くありません。痛くはないのです」



 そう言ってシンデレラは少し笑った。



 ーー私。



 もしかしたら。

 この少女の事を、誰よりも高く評価していたのかもしれない。



 キースはこの子に、苦手意識を持っていたみたいだし。

 オリヴィアお姉様とは水と油だった。



 でも……。


 私は。



 彼女を高く評価していたのだ……。



 落馬して。

 死にかけて。



 体中の血液を失って。

 たぶん、頭蓋骨骨折。



 前世の世界だったら即死。



 二週間、生死を彷徨って。

目を覚ました時。



 彼女が目の前にいた。




 そうして私は願ったのだ。



 彼女がダンスパーティーに参加して。

 王子様と結ばれる事を。




 お気に入りだった、硝子の靴を贈って。




 私は願ったーー



 私を殺しかけた相手に………。



 幸せになって欲しいと………。





 私は自分の肩が震えている事に気が付かなかった。









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