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【百十六話】真っ赤な湯舟に揺蕩うもの。





 何か大々的に宣言されてしまいました……。



 ああ。

 どうしようね……。



 身の置き場がなー……。



「……あのーー」


「なんだね?」



 フィル様は自然体で応じてくれる。



「私とルーファス様が今日のダンスパーティーで踊る予定だった事を御存知でしたよね?」



 知らない訳はないのに、予定を変更させて第一王女様と踊らせた。

 まあ、思惑はあるんだろうなーと思うけど。



 だいたい予想も付くのだけど……。

 一応ね。



「むろん知っていた。ミシェールには悪い事をしたと思っている。しかし留学への布石としては必要なことだと判断した」



 えー……。

やっぱりそうなる。



「卒業ダンスパーティーで国内の公爵令嬢と踊り、婚約を披露したならば、留学なんて話にはならないだろう。婚約、公務、結婚と自然に流れて行ってしまうからね。我が国の王女と良い関係を築いており、二年くらい母の国で見聞を広めるという流れに持って行きたかった訳だ」



 ですよねー…。



「だが安心したまえ。王女とルーファスの関係は姉弟のようなものとして処理する。カモフラージュだと思ってくれて良い」



 カモフラージュって。



「本来、癒やし手の技術は親から子へと伝えられる。私も我が父から教わった。語学やマナーや工学のように、その分野の教師はいないから。親から子へ。癒やし手から癒やし手へ継承される」



 それは、必然的にそうなるのは分かる。

 何と言っても稀少過ぎる。



「私とルーファスは同じ癒やし手でありながら、国を別している。ルーファスが生まれてからというもの、何度となくお忍びで教えに来たが、物理的に時間が足りない。留学期間中の四年で、全てを伝える覚悟でいる」



 四年って。

 出産のゴタゴタも入れて四年ていう計算のアレですね。





「二十年前、わたしはまだ若かった。国内の侯爵家の娘と恋に落ちた。その娘はウンディーネの愛する色彩はしていなかったが、私は構わなかった。後先構わず思いのままに結婚した」


「………」


「傲慢な一人の青年だった。本来ならば、気に入った娘がいるのなら、側妃として抱えれば良いだけのこと。けれど私は正妃に拘った。それが誠意なのだと信じていたから」


「………」


「その結果、双子の妹は隣国に嫁がされ、癒やし手は手の届かない国外に出てしまった」



 双子……。

 兄、妹だと思っていたが、正確には双子だったのね。



「我が妃が何十人産もうと『癒やし手』は生まれなかっただろう。妻は三女出産後肥立ちを待たずに、湯浴み中に溺死した」


「………」


「私は直ぐに駆け付けたが、息を引き取った後だった」


「………」


「死体は蘇ったりはしない」  


「………」


「ミシェール。妻は産後の出血が止まっていなかった。なのに何故、一人で湯浴みをしたのだろう? あの広い湯の張られた空間に。何故一人で揺蕩っていたのだろう?」


「………」


「王太子妃という立場で? 侍女も付けず、湯殿の介助もなく、何故?」


「………」


「体中の血が、湯舟に流れ出て、お湯は紅く染まっていた」



 フィル様は、小さく息を吐いた。



「今でも、脳裏に焼き付いている。紅いお湯と、その臭い」




 そう言うと、フィル様の手が完全にキースから離れる。


 それを合図治癒魔法の光が完全に治まり、私は手術執行が終了した事を知った。







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