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【百八話】麻酔と毒




「ミシェール、胸を開いて」


「……??」



 胸を開く??

 意味がちょっと分からない。



 もちろん、『胸』という名詞と『開く』という動詞は知っているのだが……。

 単語を知っていて、文章としても理解しているのに、分からないという現象。



 つまりーー

 状況が理解出来ていない?

 という事なのかな。



 私は自分のドレスの胸に手を当てて考える。


『胸を開く』


 普通に考えれば、ドレスの前を開けることだろうか?

 でも、ドレスというのは大概後ろ開きで、前からは開けられない。



 そもそも、この状況で、ドレスの前を開けるなんて有り得ない。



 私はこんな緊迫した場面で、非常にマゴマゴしていたのだが、見かねたティアナがキースの着ているベストの前を開いていく。



 ………。



 そういうこと!



 キースが着ている服の前を開けて欲しいというコトっ。



 お願い。

 ホントお願いします。



 私もこんな事で、もたもたする出来ない女になんか成りたくないので、主語をお願い。



 ホント。

 そこ略さないで。



 もちろん。

 状況から鑑みれば、誰だって私のドレスの前を開くなんて有り得ない。



 キースに決まってるだろって話なのだが。

 動転しすぎて気が回らないのよ?



 私は引き継ぐように、キースが着ていたブラウスに手を伸ばす。

 絹っぽいサラサラの生地。



 少し動かしたからか、キースがごほりと咳をする。


 その咳をと同時に血を口から吐き出した。


 喀血だ。


鮮血が口から吐き出される。



 肺が少し傷付いていたんだ。



 肺を擦って、肝臓に達したのか、それとも……。



 私はキースを横向きにすると、血を全て吐き出させる。



 喉に逆流しない為と、呼吸確保の為。



 私ーー

 前世で、司書じゃなくてナースをやっとくべきだったんじゃない?



 ちょっとさ、こういう世界に転生しますというのが分かっていたら、もうちょっとどうにかしたと思うのよ?



 今となっては、既に手遅れだけども。

 実地訓練全くナシの、本の知識だけでなんとかルーファスをアシストしなければ。



 心許ないですけど……。

 宜しくお願いします。



「麻酔が欲しいな……」



 ルーファスがポツリと漏らす。


 麻酔ですか!?

ないでしょ。

 普通に。



「ホントは、痛みを感じないように、魔法で神経に干渉して痛みを抑える訳だけど、臓器が二つ傷付いていて、同時に治していくとなると、神経を遮断しながらというのがなー……」



 ボソボソを呟く。



 やっぱり。

 臓器が二個行ってるんだ……。



「まあ、一個ずつ行くかな……」



 麻酔と言ったって、全身麻酔なんて到底無理だ。

 そもそも、呼吸が出来なくなる。



 前世のように酸素マスクがないのだ。

 注射器で血管に直接注入して、意識を失わせる訳だが、その後の気管支に入れる管とかどうするのって話。




 ダメダメダメ。

 麻酔医がいないのに、麻酔なんてダメだってば。



 麻酔医が呼吸とか血圧とか脈拍とかその他もろもろ全部チェックしてんのよ。

 これだから、魔法の国の人って侮れない。



 医学万能って思ってるんだから。



 でもーー



 逆を考えれば、私は科学技術の国の人だから魔法万能って考えて無い?



 万能なんて、きっとどこの世界だって存在しない。



 科学技術の国ではもちろん。

 魔法が存在する国でも。



 私は恐怖で鳥肌が立ちそうになる。



 そんな時、地を這うような低い笑い声が聞こえた。


 なに?

 何の声?



 っていうか、なんで勝ち誇った笑い声なの!?



 私は笑い声が響く方を向く。



 何であんたが笑ってるのよ?

 ティアナ・オールディス。

 キモチワルイわよ?



「この第三公爵家令嬢ティアナの別名を御存知かしら?」



 はーっ。

 何言ってんの、この(もと)令嬢が!



 あんたの別名なんて知るわけないでしょ?

 つうかマジであんた何者なの?



 当たり前のように、ここに居るし。



 ……まあ、行きがけのついでなんだろうけど。

 ……不本意ながら、割合助かってるけど。



「私の二つ名はねーー」



 あ。

 溜が入りましたね。



『リコリスの毒姫よ』



 知らないわーっ。

 聞いてないしーっ。



 今、忙しいんだから、黙っててよね。

 私は額に青筋を立てながらティアナを睨む。



 絶対、その二つ名、誰も知らない。

 自分で名付けたわね?



 私があんたと何年クラスメイトしてると思ってるのよ。

 私は確信を持って、彼女の言動をスルーした。



 ええ。

 当然の対応ですよね?


 

 ちなみにリコリスって彼岸花の洋名です。

 有毒植物ね。





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