【百六話】治癒魔法の解析
私がテラスからダンスホールに出て、アーロンに指示をするまで一分。
そこから噴水まで三分。
ルーファスを捕まえて二分。
戻って三分。
誤差で二分を予備に見て。
十一分だ。
体感でしかないのだが、十四分まで残り三分。
デッドラインを超えてはいないと思うのだが……。
そうは言っても、人体の事だから、何が起こるかなんて分からない。
早いに越したことがないとは、この事だ。
滑り込むようにテラスに戻ると、先ずは出血を止め、応急処置を施した後、処置室に運ぶ手筈になる。
ルーファスは、ティアナ・オールディスを見て怪訝そうな顔をしたが、キースを介抱する姿を見て、有害ではないと判断したのか、スルーした。
まあ、有事の際なので賢明な判断よね?
私だって多々の疑問を飲み込んでいます。
追って現れた、ブレット、セイ、アーロン以下令息方が壁になり、他者の視界を遮ると、精霊術の執行が行われる。
ルーファスの手元から、淡い光が湧き上がり、その光がキースの傷口を包み込む。
正直、治癒術の患部を初めて目の当たりにした。
もちろん。
私は何度か行使中に立ち会っている。
一度目は自分が落馬した時。
二度目はアーロン以下四名の令息に黒魔法? を掛けた時。
そして三度目は、絞殺未遂の傷を治したとき。
四度目は、被った毒の中和。
でもね?
一度目は完全に意識不明。
そして、二度目は超特殊な能力の使い方。
三度目と四度目は当事者なので、微妙に患部を見る事が出来なかった訳。
だから実質、初めて見るくらいの勢いなのよ?
出血多量の治療とは、まず血管を太い順に止血する。
これ、前世なら止血鉗子で止めるものだと思う。
怪我などをして、早急に止血が必要な時は、怪我をガーゼやハンカチで圧迫する直接圧迫止血法を行うのだが、止血鉗子はどちからというと手術時に使う止血法だ。
精霊術の場合は何で堰き止めているか分からないが、光ということはないだろうし、水でも血は止まらない。
もう少し物理的な何かなのだろうか?
いや、純粋に魔力障壁の可能性大。
そう考えてみると、結構多種の術式というか、魔法の種類が必要だ。
血流を堰き止める魔術障壁。
レーザーメスに匹敵する緻密で鋭利な何か。
そしてたぶんというか確実に、縫合の力が必要になる。
縫合と言えば、普通に考えると魔力の宿った糸が必須。
つまり魔術糸を出す力。
どこをどう取っても、一朝一夕に付く力じゃない。
フィル様の超弩級の直接教授が必要ね。
つうか、あのユカイな王と、ルーファスってかなり親密な関係でしょ。
そもそもが伯父と甥ですけども。
私はルーファスの手元に釘付けになっていた。
凄いですね。
治癒魔法ってーー