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【百三話】多量出血の救命曲線。




 前世で猫が大好きだった。

 元来のインドアだったし、物静かな方だったので、猫は私の前世の性格にピッタリのペットだったのだ思う。



 ーーけど



 悲しい思い出でも有る。

 猫は普段はすばしっこい生き物なのだけれど。



 車の前に飛び出した時。

 金縛りに合ってしまうのだ。



 怖くて一歩も動けなくなってしまい……。

 私の可愛がっていた猫も、やっぱりそうだった。



 ーーそして私も



 刃物を向けられて、一歩も動くことが出来なかった。

 私の前々世は猫なんじゃないかとすら思う。



 つまりはーー



 キースがいなければ、私が刺されていた事は間違いない。

 彼が庇ってくれたのだ。



 刃物と私の間に入って……。



 手にはキースの血糊がべったりと付いていた。

 刺された部分を圧迫する為に当てたから。



 血が溢れて来て、手をも容赦無く濡らした。



 生温かっかたわね……。

 彼の温度と鉄の匂いがする。



 お願い。

 間に合ってーー




 私は心臓が痛くなる程走った。



 手は血だらけで。

 ドレスの裾は破けていて。



 私は十センチヒールの靴を脱ぎ捨てて走った。

 裸足だったのだが、そんなことは気にして居られない。



 ヒールを折る練習をしこたましたというのに。

 このていたらくよ?



 折ってる暇もなかったし。

 ガーターベルトで裾を上げる暇もなかった。



 意外に急を要する時って、こんなものかも知れない。



 私はその格好で、ダンスホールを躍り出ると、中央辺りを見回した。



 いない?

 どこに行った?



 今の今まで王女様と踊っているなんて思わないけど。

 いったいどこに行ったのよ?



 私はキョロキョロ見回すと、一番近くで踊っていた男女の腕を取る。



「第二王子ルーファス殿下はどこに?」



 相手の女性は小さく声を上げ。

 男性は顔を引き攣らせた。



 それはそうだろう。

 なんせ私は血塗れだし、裸足だし、ドレス破けてるし。



 でも、相手だって都合の良い事に、卒業生だったから、私の顔を知っている。

 というよりは、良く知った相手だった。



 そう。

 ルーファスに精霊術を掛けられたアーロンだ。



 やった。

 こんな所で当たりを引いた。



「アーロン、ルーファス様を探しなさい。他の令息にも伝えて」



 彼が踊っていた女性は転がるように逃げて行ってしまったが、彼は辛うじで踏み止まっている。



 問答無用で命令すると、彼は為す術がないように頷く。



「……探します。他の者にも伝えます」



 アーロンは慌てて駆けて行ったが、私はそれどころじゃない。

 ああは言ったが、彼らがルーファスを捜し当て、連れて来てくのを待っていて、間に合うだろうか?



 額から汗が噴き出した。

 カーラーの救命曲線だ。



 心臓停止は一分半から死ぬ確率が発生し、五分で百パーセントと言われている。


 呼吸停止は四分半から、十五分で百パーセント。


 そして出血多量は十五分から死ぬ確率が発生し、三十分で五十パーセント。

 一時間で百パーセントだ。




 三つの中では一番、長いとは言えるが、アウトラインはもちろん十五分だ。

 デッドラインを十四分と設定して動く必要がある。



 私はこれから、ウロウロとあっちに行ったりこっちに来たりなんてことは出来ない。



 一発目で当たりを引かなければならないのだ。



 よく考えれば、前世では救急車を呼んでから、到着まで全国平均六分だった。



 ならば、ルーファスは絶対にこの会場にいると思えば、運が悪いとは言えない。

 同じ王宮内にいるのだから。



 彼が行きそうな場所を考えろ。

 性格と、習性と、性質。



 私は目を瞑って数瞬考えると、意を決して駆け出しだ。




 いてよ?

 ルーファス。




 半分は神頼みだ。

 というか精霊頼みかしら。



      

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