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【百一話】時を戻して。



 ナイフは彼女の手に、水平に握られていた。



 普通、ナイフというのは水平には握らない。

 手と柄の作りから、刃は直角になるように持たれるのだ。



 当たり前の話だが、まな板などに向かって、直角に立てるように切るから、物は切れる。



 水平とは即ち。

 不自然な持ち方。



 不自然とは、そこに明確な理由が発生する。



 ーーつまり



 目的が有り。

 目的を果たす為には、水平である必要がある。



 腹部をナイフで刺しても、即死はしない。

 しかし、腹部以外の内臓というものは、肋骨で守られているのだ。



 臓器を守るのが肋骨の役割。

 刃物は肉には刺さりやすいが、骨には刺さらない。



 果物ナイフは剣ではないのだ。

 そして持ち手も素人。



 それが故に、肋骨には弾かれやすい。



 ーーだから、肋骨を掻い潜りやすい水平持ち。



 私は肌が粟立った。



 私の心臓をひと突きにする気なの?



 しかも、転ぶのを装って向けたナイフだ。


 彼女の全体重が掛かっている。


拳台の心臓にストライクにいけるか分からないが、行ったら死ぬだろう。



 心臓なんて血液と血管の塊だ。


 臓器の中では脳の次に大切なのではないだろうか?



 脳裏にイヤなものが蘇る。

 夜中に私を絞首しに来た人間は何をした?



 体重は軽かったが、関節を拘束するように、両足を使っていた。

 結構えげつない方法だった。



 そっくりよね?

 思考回路がそっくりなのよ。



 関節の殺し方と。

 ナイフを水平に持つその手口が。

 



 でもーー

 


 私の体は金縛りに合ったように、固まっていた。



 十センチのヒールなんて履いてたのが悪いの?


 ロングドレスだから悪いの?


 人目のない所にいたのが悪いの?



 反省点は多々有ったが、あったとて、今はどうこう出来ない。



 避けなさい。

 ミシェール。

 避けないと死ぬわ。



 左胸を狙っているのだから、右に一歩動くのよ?

そうすれば、左手を擦る程度だわ。



 私は銀色のナイフに釘付けになったまま、殺意を向けるシンデレラという少女に憎悪を感じた。



 人を殺そうと考える人間。



 夜中の公爵家で首を絞められ。

 今また、ナイフを向けられている。



随分と舐められたものなのだなと思う。



 オリヴィアお姉様はシンデレラを徹底的に虐めていた。

 怖い姉だと思っていたけれど。



 お姉様は考えが有って、シンデレラを受け入れなかったのかも知れない。

 本能ではなくて、理詰めで?

 もしくは両方で?



 オリヴィアお姉様の勘は動物並みだ。

 誤解を招きそうな言葉だが、褒め言葉。



 私は彼女のように、勘が鋭くない。

 今の今までシンデレラはノーマークだったのだ。



 キースは何でシンデレラと踊らなかった?


 彼はシンデレラを避けていたのだ。


 オリヴィアお姉様ほどではないにしても、それなりに本質に辿り着いていた。


 私はどうだろう?


 彼女の愛しの王子様を探して、右往左往していたのだ。


 何というみっともなさ。


 お節介にも、お気に入りの硝子の靴まで渡して。


 

 私の気の強い性格上、このままでは済ませられない。



 ーーだから



 右に動くのよ。



 そして百倍返しだ。


 


 けれどーー




 私の目の前に、人影が覆った。



 黄色い髪の少年。

 背中はまだ、そんなに大きくない。

 背だって、私とどっこいどっこい。




 私とシンデレラの間に入り、私を刃物から遮ってくれた。



 私の優しい優しい弟。





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