【九十九話】主人公はあなた。
化粧が崩れるー。
なんせ厚化粧ですから?
これは、シンデレラの次にレストルームに駆け込むのは私ね。
先ずはカールトン家の三女が駆け込み、次に次女。
長女は何が合っても駆け込みそうもないが……。
ダンスパーティーで姉妹して化粧崩れ?
みたいな?
笑えなー。
しかしーー
こんなに優しい弟が、シンデレラを避けているのはどういう事なのだろうか?
一応は婚約者候補であるのに、ダンスも踊らない、結婚もしないと断言するのは些か不自然だ。
あのオリヴィアお姉様ですら、『踊る』と言っている弟なのに……。
まあ、キースの中では、オリヴィアお姉様の立ち位置は結構高い(?)
モヤモヤしてしまうから、聞いて置こうか?
硝子の靴の事もあるしね。
「キース」
「何ですか?」
「さっき、カールトンの美人三姉妹と言ったわよね?」
「言いましたね」
「誰が一番美人だと思ってるの?」
キースは少し苦笑いをした。
「本人を目の前にして、答えにくい質問ですね?」
ふむ。
成る程。
答え難いのなら、次女ではない。
そりゃそうだ。
私なら、目の前にいたって答え難くはないだろう。
まあ、客観的に見て、私は無い。
うん。
虚しいが、事実なので一応ね。
となると、オリヴィアお姉様かシンデレラという事になる。
キースはオリヴィアお姉様の事を、『綺麗で頼れるお姉様』と言っていたのだ。
まあ、オリヴィアお姉様の事をそれなりに『綺麗』とジャッジしてるのは事実なのだろう。
ーーけど
オリヴィアお姉様と言う人は、何というか、私の実の姉だけあって、似ているというか……生意気そうで意地悪そうな顔というか……。
そういう系列の顔な訳。
好き嫌いが出そうな顔よね?
美人は美人だけど、誰もが認める美人かというと疑問が残る。
百歩譲って、キツそうな美人だろうか。
「客観的に見れば、シンデレラお姉様なのでしょうか? 個人的に見ればミシェールお姉様です。これはもう惚れた弱味というか……」
そう言って、照れたように笑った。
可愛い。
私の弟が可愛過ぎます。
やっぱり、百年先まで弟にして置きたいわ。
しかしーー
『客観的に見ればシンデレラーー』か。
弟の目は、そこまで曇ってはいないという事だ。
男性は基本美人が好き。
というセオリーで行けば、シンデレラの事を無下にする理由が分からない。
「あのね、三人姉妹の中から、婚約者を選ぶのよね?」
「そういう約束ですね」
「シンデレラがない理由を聞いても良い?」
「…………」
優しい子だから、明確な理由がない限り、姉とダンスを踊らない? 等ということはない筈だ。
「……きっとルーファスお兄様もエイベルお兄様も『ない』と言うと思いますよ?」
「………」
エイベルというのは、あの第一王子様の御名なのだが。
えー。
意味、分かんないわ。
『この三姉妹から、婚約者を選んでね』と言われて、一番の美人を選ばないその理由が……。
「ミシェールお姉様」
「何?」
「シンデレラお姉様の事をどう思っているのですか?」
「? 美人の義妹?」
「僕の事は?」
「徹頭徹尾、可愛い弟」
ついでに言うと、弟として大好きです。
みたいな?
でもーー
アレ?
シンデレラの事。
徹頭徹尾、可愛い妹とは言わないわね?
可愛くて。
大好きで。
という位置にいる妹じゃない。
美人とは思うけど。
そうこう考えているうちに、テラスに人が来る気配がする。
こんな姉弟同士がイチャラブしたテラスに、平気で入って来る人って、ちょっと変わってる人だと思う。
もしくは空気が読めないタイプ。
誰だろう?
私は相手の顔を確認しようとしたが、足元の靴で直ぐに分かった。
硝子の靴だ。
光が当たると、七色に反射する。
水色のロングドレス。
腰まで靡く金髪。
誰もが振り返る、私の妹。
シンデレラ。
泣き止んだようで良かったです。
彼女も、私も。