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9. 更なる試練と経験と



「どうしたんだい。坊や。それは以前の村の名物で、鳥の手羽先焼きだよ? デービールウイングって言ったらちょっと有名なご馳走だったんだよ? 知らないのかい? ふおっふおっふおっ」


「……」


「なんだい。要らないのかい? 美味しいはずだよ?」


 下手物(げてもの)食いのフレッドには分かる。本人はそうとは思っていないのだが。これまで散々口にしてはいけない物を食べてきたフレッドだからこそ分かってしまった。これは食べてはダメなヤツだと。


 実際には痺れ薬が塗られていたのだが。実際に食べたとしても完全に動けなくなるのではなく、意識はしっかり残り、言葉は話せる位の痺れ具合に調整された薬だったのだが。フレッドの見た目に合わせて調整された。


 仮にフレッドが食べたとしても、全く効果がなかったはずの量だったのだが。それでも緊張しきっている今のフレッドには、より敏感にその毒物を感じ取れてしまったのだ。良くない意味で。


 やはり自分は殺されるのだと。しかし、何故殺すつもりの人間にこんな食事を提供するのか分からなかった。理解できなかったのだ。フレッドには。



 それは、意識を適度に持たせたまま食す為。それだけの事だった。


 味以外の食事の要素。場所、人、見映え、匂い、音。色々とあるのだが、同じステーキを食べるなら、ジュージュー音を立てる鉄板の上で食べた方が食欲をそそるだろう。簡単に言ってしまえばそういう事だ。


 久し振りの大好物の獲物をどう食するか。2人の悪魔の頭の中にはそれしかなかった。



 気配がやや薄い子供だとは感じていたが、この悪魔達の熟練された経験からすれば大した誤差ではなかった。希に見た目とは裏腹に気配の小さい人間が居る事も、そういうスキルがある事も知っている。


 だが、目の前のご馳走は、言っても少年だ。これくらい気配が小さくても何ら不思議ではない。それくらいは誤差のようなものだったのだ。強者の目からすれば。


 それに、村の入り口付近で話し掛けた時、それだけで動けなくなってしまった存在だ。特に気を当てる事すらしていなかったのに。


 念には念を入れ、家族や仲間の存在を確認し、老婆がフレッドの対応をしている間に、もう1人の老爺が周辺を警戒して回ったりもしていたのだ。



 フレッド1人だけ。飛びきりのご馳走が自らやって来てくれたのだ。フレッドにしても、もう逃げられないと観念しているかのような応答しか返していない。


 勿論、観念していた所もあったのだが、元々そんな応答しか出来なかったのだが。


 当然そんな事は知らなかったし、どうでもいい事だった。今はこの目の前のご馳走をどう料理してやろうか。どうしたらより美味しく食せるだろうか。そんな事しか考えられなくなっていた。


 まさかフレッドに剣や槍を振らせれば、それなりの腕を持っているなどと思いもしなかったのだが。


 当然、今のフレッドの身体能力では、目の前の老婆にすら敵わない。軽くあしらわれてお仕舞い。それくらいのレベル差があったのだ。


 だからこそ油断もしていたのだが、それがフレッドにとっての唯一の救いだった。



「……あ、あの。ぼ、僕はどうなるのですか?」


 漸く口を開いたかと思ったら、フレッドの口から出たのはこんな質問だったのだ。察しがいいと見た老婆は、もう観念していると思い、より警戒をしつつではあったが、本音を話す事にした。



「ふおっふおっふおっ。そうかいそうかい。それに手を付けないって事は理解しておるんじゃろう? 自分がどうなってしまうかを。これから拘束されて、喚きながら少しずつ体が失くなって行く事になるんじゃぞ。ふおっふおっふおっ」


「……っ!」


 流石にそこまでは理解していなかった。当然だろう。教会の教育で悪魔の存在くらいは知っていたが。それがこの人達だなんて分かっていなかった。


 2人が被っている不自然な形の帽子を取っていれば気付いたかもしれないが、そんな事が出来るはずがなく、自ら取ったとしても、それが魔人族特有の角である事は分かっても、人を疑う事を知らないフレッドにとっては同じ事だったのだ。こう話してもらうまでは。



「なんじゃい。もう打ち明けてしまったのかね。面白くないのう。これからじっくり時間を掛けて恐怖と苦痛に歪む顔を見てやりたかったものを。ふあっふあっふあっ」


 いつの間にかフレッドの横に姿を現した老爺の言葉。フレッドは、その姿を捉える事も、言葉の意味を理解する事も出来なかった。


「…………」


 目を大きく見開き、顔に現れているのは恐怖と絶望。全身の毛穴から汗が吹き出している事にすら気付いていなかった。


 その表情を見て嬉しくなったのか、悪魔の老夫婦は更に機嫌を良くし、フレッドの様子を涎を流しながら眺めるのだった。



 フレッドは動けない。下手に動けば手足をもがれるかもしれない。下手に抵抗すればそれだけ死期を早める事になる。本能でそう感じながらも、実はその方が早くこの現実から逃れられるのかもしれない。


 そんな相反する思いがフレッドの全身を駆け巡った。それでも何もする事は出来なかったのだが。



 そんな様子を見るのを一段落させた老爺は、まだ何か準備があるらしく、その場から動き出し、調理場へと向かって行った。老婆を1人残して。


 勿論、老婆は逃がすつもりなどないし、一応の警戒はしていた。はずだった。変に動き出せばその部分を真っ先に食ってやろうと考えていたのだから。



「…」


 それは突然だった。目にも止まらぬ早業とはこの事を言うのだろう。調理場で何かの作業をしていたはずの老爺の姿が消えたのだ。


 突然大きな気配が消えたのだ。しかも自身が長く寄り添って来た相方の。上機嫌だった老婆が驚いて、ガバッと振り返ってしまったのは当然の事だった。


「っ! な、何が! ……」


 それも突然だった。目にも止まらぬ早業の再現だった。フレッドから目を離し、後ろを向いてしまった老婆までもが消えたのだ。


 ゴミ箱設置 →ゴミ処理 →ゴミ箱回収


 極限の緊張状態の中で、いかに早くこの手順をこなすか。これにしか力を使っていなかった。


 幸いにも、初撃は背にしていた為に老婆の視野に入る事はなかった。別にそこまで油断していたのではない。そんな攻撃手段がある事すら想定外だったのだ。それをまさかこんな子供が放つとは。


 正確には魔法攻撃でもなかったのだから、魔力の揺らぎすらなかった。だから何が起こったのか確認したかったのだ。



 老爺にしても、何かの作業に集中していた為に、目の前が一瞬真っ暗になった事にすら違和感を感じなかったのだ。ん? そんな疑問すら抱く前に処理されてしまったのだ。


 そして迷わずゴミ箱の回収。自らのスキルの能力を信じ、結果については全てを任せて回収した。老婆に気付かれないようにする為に。


 その期待に応える形でゴミ処理スキルが残してくれたのが、魔人族の印でもある角。魔角だった。



 老婆にしても同じで、一瞬目の前が真っ暗になった事は理解できたはずなのだが、何が起こっているのか理解できなかった。


 相方が突然居なくなり、自分の目の前も突然暗くなった。それくらいの感覚だったであろうか。攻撃された感覚すら無かっただろう。実際に殴られたでも、魔法を受けたのでもない。


 一瞬にして意識と共に体が消えてしまったのだから。何も出来ぬ間に処理されて行ったのだから。ゴミ処理スキルによって。老爺と同じ位の大きさの魔角を残して。



「は、はあぁ……。やれたのか、……」


 ガタッ


 漸く緊張が解け、力が抜けたフレッドはその場に崩れ落ちた。そして、自身の体が熱く高揚するのを感じた。これまでに感じた事がないくらいに大きく。


「う、うわあぁ~、こ、これって、……」


 ぶわあ~ん。いや。そんな擬音や気の利いた効果音などは無かったのだが、自分の体に途轍もない変化が起きた事は分かった。


 圧倒的強者を倒した後のレベルアップだ。それも2体もだ。



 老夫婦とは言え、現役で狩りを続けている程の魔人族。悪魔だったのだ。人間のそれとは比べ物にならない程の経験値とスキルを持っていた。


 それがフレッドのスキルであるゴミ処理によって、フレッド自身に還元されたのだ。スキル所持者の特典として。


 今のフレッドには、それを確認する術は無いのだが、身体能力の大幅な増加は別ものだ。直ぐに分かったし、それは今後もフレッドの助けとなるのだが、それはまた別の話。



読んで頂きありがとうございます。

8日目にして、『19』PV。

ふっふっふっ。やるでしょう?

順調に下降中。

まだまだ私は負けませんけどね。

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