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8. そして物語は動き出す



「もう。本当にこいつらばっかりだよね。色々確認したい事もあるのにさ」


 独り言。フレッドの近くには誰も居なかった。人間は。


 代わりに現れるのは、グギャグギャ言いながらこちらを見付けると襲い掛かって来る緑色の臭い魔物。人はそれをゴブリンと呼んでいる。


 視認できる範囲ならば、それなりに離れていてもゴミ箱設置で対象を捕らえられるようになり、フレッドは1度も攻撃を受ける事なくゴブリンを処理して行った。面倒臭そうに。実際に臭いのだから間違いではないのだが。



 自分の中に眠っていた察知スキルの存在に気付いたフレッドにとって、ゴブリンなど怖い敵ではなく、只の鬱陶しい魔物と成り果てていた。


 それと、気配遮断スキル。自らの気配を薄くして見付からないように潜むスキル。スキルレベルだけなら中級者のそれをも使いこなし、尚一層有利に戦闘を進めて行った。


 元々持ち合わせていた素質と生い立ち、これまでの行動と、このスキルとの相性は良過ぎたと言ってもいいのかもしれない。


 これは最早戦闘ではなく、只の処理作業とも言えるのだが。勿論フレッドはそんな風には思っていないのだが。




 暫く進むと、馬車の荷台を発見した。フレッドが馬車に追い付いた形となるのだが、その馬車は前に進んでいなかった。


 漸く見付けられた自分以外の人間の存在を期待して、更にスピードを上げて馬車に走り寄る。


 ガシュッ! ブバッ!


 ゴンッ! ゴシャッ!



 すると聞こえて来たのは戦闘音と思われる痛々しい音。それと同時に崩れ落ちる緑色の魔物の姿を目にしたのだった。


 馬車の前では男が2人、複数のゴブリンと戦闘を繰り広げていた。


「えっと、何か手伝った方がいいですか?」


 ふと思った事を口に出したフレッド。この言葉は、馬車に残っていた1人の男に向けて告げられものだった。


 がたっ!


「なっ! いつの間にっ!」


 走る時にも常に気配を殺していた為に、その男はフレッドに声を掛けられるまで気付けなかったのだ。


「……。えっと、今ですけど?」


 素直にその言葉に応えるフレッド。嘘は付いていない。


「そ、そうか。そうだよな。ちょっと周りの警戒を怠り過ぎていたのかな。ははは」

 

 ただ、この場合は、前方の戦闘に注視していた為だと捉えられたようだが。


 結局、フレッドが手伝うような事は何もなく、2人の男達が容易くゴブリンを処理していった。



 この馬車は、商人と護衛の冒険者2人で移動している最中だった。その途中でゴブリンに出会(でくわ)したと。よくあるパターンだった。女性の姿は無かったが。


 漸く人に出会えたフレッドは、やや嬉しくもあったのだが、やはり人と接するのは得意ではない為、終始商人の男からの質問に答えるという形で進んでいった。フレッドを御者台に乗せて。


 12歳の少年が1人で旅するなど、やはり通常の事ではないのだから、3人の大人からすれば気になるし、自分達の知らない情報が得られるかもしれない。フレッドの向かう方向が町と言うのなら、暫くは一緒に進んでもいいだろう。


 お互いに思惑はあったのだから、特に悪くもない道中となったりもしたようだ。フレッドにとっては、やはり途中からは苦痛のようだったが。



 暫く進むと分かれ道へと差し掛かった。十字路の1つは商人達が目指す町のある道。1つは時間は掛かるが比較的安全に大きな町へと進む道。


 最後の1つは廃村を通り抜けて大きな町へと進む道。こちらの方がやや早く大きな町へと到着できるが、山越えとなる為その分魔物とも遭遇しやすい道になるのだとか。


 当然、フレッドの事を考えて教えてくれていたのだが、今のフレッドにしてみれば選択肢は1つ。考えるまでもなく少しでも早く大きな町へと行ける道。


 それに、ゴブリン以外の魔物にも会ってみたい。そんな単純な気持ちもあって進路を決めた。


 魔物を処理すればする程自分の力が増しているような、そんな気がしていたのだから、そう考えてしまってもおかしくはなかったのだが。



 馬車が進むのを見送るフレッドがどちらの道を進んだのか。それは3人の大人には確認できなかった。するつもりもなかったし、既に木々が邪魔をして目視する事は出来なかったし、当然安全な道を進むと思っていたのだから尚更に。



「よしっ! 少し飛ばして行こうかな。だいぶゆっくりになっちゃったし」


 ザッ


 馬車の速度はそれ程早くはなかった。フレッドの感覚では、自分が少し早く歩いているくらいのものだった。


 先を急ぎたいフレッドにとっては、久し振りに人と話せた嬉しさよりも早く大きな町に行く事の方が重要だった。ずっと話し掛けられていたという苦痛も大きかったが。


 だから魔力を体に流し、身体強化を発動させて駆けるのだった。初めての山道を。解放された喜びと共に。




『デービール村』


 見た事もない文字で書かれた看板には、そう書かれていた。廃村となっていたはずなのに。


 勿論、フレッドにも読めないし、そもそも読ませるつもりもなく下手くそに書いてあったのだが。それは元の村の名前とは違う文字だった。



「おや? 坊やは1人かい? 家族や仲間は居ないのかい?」


 村の入り口付近で立ちすくんで居たフレッドに話し掛けたのは、とても普通の人間の老婆とは思えない程に体格がよく、その動きからは老婆と呼ぶのも(はばか)られるような身のこなしの人物だった。


 そもそも、察知スキルでは何の反応も無かった場所に突然現れたかのように見え、気配遮断スキルを使っていたはずのフレッドを即座に見付け、こうして事も無さげに話し掛けてきているのだ。フレッドが驚きの声を上げなかった事の方が驚きだった。



「っ……」


「おや? そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。坊や。ここは廃村だった場所さね。ここには、わしとじい様の2人で暮らしているのさね。あそこに1つだけまともな建物があるだろう。あそこで暮らしているのさね。ふおっふおっふおっ」


 フレッドは動けなかった。自分は殺される。瞬間にそう思ってしまった程に緊張し、言葉も出せなかったのだ。それ程の実力差のある相手だったのだ。


 それなりに力を手に入れていた今のフレッドには分かってしまった。勝てないと。


 そこから先はあまり覚えていなかった。我に返った時には、先程見せられた1つだけあったまともな建物の中に居て、何故か食事を提供されているところだった。



 それ程大きくないテーブルには、いかにも美味しそうなご馳走が湯気を立てて並んでいた。これまでフレッドが見た事もないような料理もあったりした。


 かなりの距離を移動した為に腹もそれなりに減ってはいるはずなのに、何故か仕切りに勧めてくる老婆を前にして、未だに体が動かないような気すらしていた。


 フレッドの視界の端には、先程じい様と言っていた存在であろう老爺(ろうや)が何やら忙しなく動いていた。時折自分を見てはにやりと笑うその姿にも、得も言われぬ恐怖を感じてしまっていた。


 ああ、自分はどうなってしまうのかと。お金は持ってないのに、どうしようと。




 デービール村。ここは、2人の悪魔が住み着いた廃村跡。



『魔人族』


 人間族とも、獣人族とも異なる種族。一般的には、獣人よりもかなり身体能力に優れ、人間よりもかなり膨大な魔力を持っている種族。それが魔人族。


 中でも好戦的で自分達こそが世界を統べるべき存在として(はばか)らず、敵対する者は悉く抹殺する悪魔族。中には人間や獣人の血肉をも喰らう者も居ると言われている。


 それとは反対に、他の種族との共存を望み、その能力を活かして貢献している者達も少なからず居るのだが、自らを善魔族として区別するようにしていた。


 今回フレッドが出会ってしまったのは、残念ながら悪魔族の方だった。しかも、人間の血肉をも喰らい、特に子供の血肉を好んでいる2人だったのだが。



読んで頂きありがとうございます。

7日目にして、『20』PV。

ここで実力が出ましたか。

やはりと思ってはいても、流石にくるものがありますね。

ふっ。

それでも私は負けませんけどね。

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