白銀に揺れる
痛みが広がる。身体の内側を無数の針に刺されるような絶えることのない痛み。
しかしその痛みがクレアの意識をギリギリで保っていた。
後ろから引っ張られ床をズルズルと進んでいるのがわかる。
アティが妖精の小さな身体に大量の魔力を送りながらクレアを運んでくれているのだろう。
―
妖精にとっても魔力を身体に留めることは容易なことではない。
妖精が術者に合わせ調整した魔力を術者の身体に通し意思の力で方向付ける。この流れを適切に行うことで初めて術式として正しく作用するのだ。
魔力を身体に留める技術は難しく生半可な努力では成しえないものであった。
まして身体の小さな妖精にとっては強烈な苦痛を伴う行為であった。それでもアティは諦めなかった。
大事なクレアが助かる可能性が少しでもあるなら――――
幸いにもバグは通路の中に侵入してくる様子はないようだ。相変わらずその得体の知れない存在は扉の近くから離れる気はないようだがアティは少しだけ安心することができた。
風の流れを感じることができた。
「もう少し…クレアお願いもう少しだけ―――」
暗い通路が終わり淡い光が見えた。正方形の部屋のような空間だった。
四方を金属の壁に覆われ完全に隔離された状態だった。大昔の遺跡だが埃一つない空間は何かの実験室を思わせる。
外に通じているような箇所は見当たらないが新鮮な空気が流れているのを感じることが出来た。
何らかの力が現在も稼働しているようで正体不明の淡い青白い光が部屋全体を照らし無機質さを強調させる。
そして何よりも鳥類の卵のような装置が異質な存在感を放っていたのだった。
「――ここは…!それよりもクレア!!早く治療術式を―――…なッ」
アティは絶望にも似た声を上げる。
クレアの術式札を入れたポーチは先程の爆発で無残に焼けこげて中の術式はまともに使用できる状況ではなかったのだ。
なぜ悪いことは連鎖するのだろうか?
「これじゃクレアをッ…!!」
私がクレアをここに連れてこなければ―――
私がもっと早くバグに気づけていれば―――
私がもっとクレアをサポートできれば―――
後悔が渦巻く、それは本来妖精が持ち合わせることのない感情、この気持ちはシステムにはない筈の…私は欠陥品、だからクレアを救えない―――
「ごめんなさいクレア…私が――」
顔を上げクレアを見た。血が足りていないのであろうか顔は蒼白としている。だがその目ははっきりと一点に向けられていた。
ゆっくりとその先に手を伸ばす。つられるようにアティは振り向き見る。
『認識シマシタ…パスワード解除…確認シマシタ―――クレア・レシュノルティア――』
――――
今回はアティ視点です。
次回からクレアに戻ります。
文章難しい
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