少女と妖精2
古の大火
1000年以上も前にこの世界に存在した文明は僅か数日で滅びたと伝えられている。
当時の文献はほとんど消失し現在にはおとぎ話の様な言い伝えが残るのみである。
曰く―
偉大なる文明は終末の火に焼き尽され、黄昏に人々は祈りを捧ぐ
大地は毒され星は終わりなき終焉を迎えた
創られし神の子は祈りと願いのもとに世界を分かち繋げる
―――
ベルリ砂漠は広大な面積を誇る大陸最大の砂漠である。
失われた文明の名残か沢山の遺跡が残っているため数多くの探索家が訪れるが、過酷な環境や危険な砂漠生物も数多く生息しているため手つかずの場所も多い。
クレアたちが訪れた場所はチェスカ王国付近の遺跡群のひとつだった。
「この辺かしらね、地下に広めの空間が開けているわ」
瓦礫の散らばる地面に小さな手をあてながらアティが得意気に呟いた。
「…ってどこにも入り口なんてないじゃない!」
少しくたびれたようにクレアは辺りを注意深く観察するがないものはないのだ。
「なぁに?ここは比較的安全な場所よ。凶暴な生物は少ないしバグの発生も聞いたことないわ。日もまだ高いんだから地面でも掘ってみれば?」
他人事のようなアティの物言いにクレアは思わず悪態をつきそうになる。
「―ッ…まぁアティはここまで連れていってくれたし私も頑張んなきゃね!」
「ふーん随分素直じゃない。いつもそのくらいなら可愛らしいのに」
うるさいとぼやきながらもクレアはポーチを下ろし探索用の道具を取り出していった。
コツコツと地面を叩きながら層の薄い箇所を確認して小さめの穴を掘っていく。
いくつか穴を掘り終えるとそこに術式の書き込まれた管を丁寧に配置していくのだ。
単純な作業だが炎天下のなか砂塵の吹きすさぶ遺跡で行うには中々の重労働だった。
体力を使う探掘作業や危険な遺跡に入り、ときには何週間も帰らず調査する探索家は元来男のほうが多い。
ましてやクレアのような若い女でこの職になりたがる者はとても少なかった。
それでも彼女がこの仕事を選んだのは貴重な遺物が金になることだけではなく、ある種のロマンのようなものだったのだろう。
汗を拭いながらどこか楽しんでいる様子の彼女を見ながらアティは思った。
「さてアティ!仕事よ、術式を展開するから魔力の調整お願い」
「…わかったわ、仕方ないからこの私が力を貸してあげるわ」
その言動とは裏腹に少し嬉しいような不思議な気分でアティはクレアの周りを幻想的に飛ぶ。
それはまるで蝶の舞いのような美しい線を描いていた。
しばらくすると周りの空気が静かに震え淡い光を放ちながらアティを通じ魔力がクレアに流れ込んでいくのだった。