少女と妖精
「・・・あつい・・ほんと、こんなところにお宝なんてあるのか?」
ともすれば気絶してしまうような灼熱の日差しの中を歩きながら少女は独り言のように呟いた。
周りには人の気配はなく時折吹く砂塵を含んだ風だけが音を奏でていた。
もしも誰かがその様子を見ていればきっとこの暑さで気がどうにかしてしまったように感じるだろう。
しかし返事は確かに聞こえてきた。
「…何よ!この私が信じられないっての?クレアは本当に疑り深いんだから」
一見すると過酷極まりない状況には似つかわしくない幼く甘ったるい声が聞こえてきた。
クレアと呼ばれた少女は肩につかない程度に切りそろえた髪をざっくりと後ろで結び、探掘用のローブを身に纏っていた。年は16~17歳くらいだろうか。
はっきりとした目鼻立ちは少し大人びていて黒い髪が良く似合っている。
服はローブの下は肩までの動きやすい藍色のシャツ、太めの麻製のしっかりとしたズボン、丈夫そうな革のブーツに革のポーチと男勝りではあったが
それでも年頃の娘らしく左耳から薄緑の石のピアスが涼し気に揺れていた。
「そんなこと言われてもさ、これだけ何もないと小言の一つも出るぞ!」
溜息まじりの声でクレアが何者かに愚痴のように返した。
「それで、アティこのあたりの探索はどのくらい進んだんだ?」
アティと呼ばれた何者かは答えるように姿を現した。
空間から突如生み出されるように淡い光を放つ彼女の姿は一般的には妖精と例えるのが最も適切だろう。人の頭程しかない小さな身体に薄くガラスのような羽を肩から伸ばしクレアの周りを蝶のようにひらひらと舞っていた。
金色に輝く髪はきらきらと太陽の光を反射し、腰に届くほどの長さだった(と言っても元の身体が小さいのだが)
砂漠の環境に似合わない真っ赤なドレスは美しいが彼女の異質さを際立ていた。
「――ッ、もちろん大体調べ終わったわ…少し進んだ先に未調査の遺跡があるみたいよ」
アティが手を横に切ると淡く輝く不思議なガラス版のような物が現れた。幾何学的な文様が浮かび上がるのが目に入ってくる。
ガラス版をせわしなく触りながらもアティは答える。
この世界でアティを含む妖精と呼ばれるモノたちは大気中に存在するエアと称される魔力を介して空間を探索したり物の情報を引き出す力をもつ不思議な種族である。
クレアの住む世界では生まれると同時に妖精と契約する。それはこの世界のルールだった。
クレアのような探索家にはとても頼れる相棒だったのだ。
「オッケー、もうひと頑張りね!!」
気合を入れなおしてクレアは砂塵が吹き岩がむき出しの道なき道を踏み出した。
―――
ベルリ砂漠
そこは古代の遺跡が数多く存在するヨルム大陸中央に位置する広大な砂の大地。
見渡す限りの砂丘には不自然で歪な旧世界の近未来的な遺跡群が点在し独特かつ異様な様相を呈してた。
この先に眠る者との出会いをクレアたちはまだ想像もしていないのだった。