009 いのちをだいじに
◆
「ぐっ…余裕が無くて悪い。いいか、一度しか言わない。お前から診て俺のステータス全部MAXまで上げろ。スグやってくれ!じゃないと身体が持たない、頼む」
「は、はいっ!」
全力で駆け付けてくれた代々木くんに対し、鬼気迫る表情かつ塩対応。「済まん…」生気の薄い顔色と身体から発する熱で事態を察してくれたか…代々木くんの腕に食い込む俺の指の力が事態は急を要する事を雄弁に物語る。握力!?危ねぇ!ステータスが上がったら握り潰す可能性もある。慌ててパッと手を離す。
…
「悪い…」
余程強く掴んだであろう、内出血の後が痛々しい。それでなくとも彼は今彼女なのである。
「んぎっ…どれか1つの上限に拘らないでくれ。ステータスバッファのMAX値を定義して全体を一気に書き換えて…」
…
「やってます」
絶え間なく続く頭に響く鈍痛、全身を軋ませる圧力を必死に抑え込む。
「ありが、と…バッファの構造は後で見直そう。書き換えオーケーなら次は2倍で、エラーだったら半分で頼む…」
…
「了解」
「スマンね…」
処方は効きつつある。俺が耐えきれれば終わりだ。“まったく…”気付けば足元には心配そうに俺を見上げる4匹のお供が俺を取り囲んでいる。待ってろと言い付けたんだが、仕方ない。
「頼りなくて悪いな。そう心配するな…置いてかねーよ」
…
……
徐々に痛みは和らぎ身体が楽になっていく。熱が引き、熱いから温かいに、次第に丁度良い塩梅に推移していく。身体の中を一陣の涼風が吹き抜けていく。
(やれやれ。峠は越えられたかな)
一息ついて、4匹を各々をそっと撫でてるる。“もう大丈夫だ”―――周囲を見渡してウルスカと目が合う。だが、“少し待って”の意味で人差し指を立てた。
待って欲しいのには裏がある。自分が癒される傍ら、慣れない異様な変化を体内で感じていたからだ。“これは…”恐らく1つはステータスが上がった事での単純な身体的強度の変化。と言いつつ筋肉量が増えた気もしないし、外見がムキムキになったりもしていない。質が変わった?って説明が感覚的に近いであろう気がする。謎だな…力の入れ方に慣れないと壊したり握り潰したり、残像を残す縮地的な高速移動が出来てしまいそうな、そんな力が内面から溢れてる。ステータスを見れないから後で代々木くんからヒアリングしよう。
そしてもう1つ。コッチは推測であり、説明が上手く出来ない。分からないってのが正直な感想だ…憶測でしか語れない。現代的な俺の乏しいゲーム脳知識で云うところのMPやINT値が関わっている部分?なのではないかと推察はしたけど確証はない。身体的な事ならともかく知識系なんて、ねぇ?
(魔法や異世界の知識常識?知るわけねーじゃん!)
知識が無いなりになんとか答えに辿り着こうと逆算はしたが、行き当たりばったり感は否めないな。加えて正解かどうかもイマイチ分からない。
能力の習得は済んでいる。
(上手く使えない理由は?)
レベル、ランク概念は神には関係する?
(それは人としての概念ではないか)
見た目とステータスは一致しない。
(強大な力を有してる神はムキムキか?)
ステータス概念はあるかもしれない。
(神のステータス?)
筋肉系ステータスも必要かもしれない。
(欲している能力に筋肉系は恐らく不要)
知識系ステータスが一定以上関連する。
(能力が使いこなせないのはこの辺が理由か?)
ステータスを上げて様子を見てみようか…
簡単に言うと俺の器の問題ではないのか?って意味だ。
軽トラックにF1エンジンを積んだのなら、実現するにあたって性能を活かしきれない、車体がもたない等、様々な問題が発生するはずなのだが、それを半ば強制的にでもエンジンに見合う車体にしてしまえ!と云う、何とも乱暴な手段を用いて今まさに対処してる真っ最中なわけだ。
ウルスカに貰った力で俺が満タンなのかもしれない。そこに更にオーディンの力…収まりきらないなら、俺の身体を神に近い器に改造するしかない。その手法は非常識でも非合法でも何でも構わないとゆー荒療治!俺はその辺に拘りはない。
(やらかしてから考えればいい…“愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ”だぁ?…経験が無いんだ、やるしか選択肢が見つからねーよ)
「でもアレだな…“ガンガンいこうぜ”でもいいけど、“いのちをだいじに”も必要だな…」
助かる目処立った今だから言えるが、僅かではあるが賢者に近付けた気がした。
(その距離10マイクロメートル位な…byサガミオリジナル)
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2018/12/22/Sat/12:00-