008 荒ぶら荒ぶり荒ぶる
「フンッ!状況を確認しよう」
大木に刺さっていたグングニルに引き抜き、4匹の獣に囲まれながら独り言を呟く。
グングニル
オーディン
ALMIGHTY
全知全能?
“…
能力習得工程完了致しました”
タイミングよく新たな能力習得が終わった。終わったわけなんだが…
「グングニルって…」
手の中で鈍く煌めく槍に視線を落としたまま更に言葉を接ぐ。
「三柱の…一つかよ」
“オーディン”と云う神が居た…もう居ないけどな。北欧神話って神様何人居るんだっけ…頭がまだ混乱している。
(ジジィがオーディンねぇ。グングニルだもんなぁ…)
「人違いじゃなくて、本物の神様?だったわけなのか?」
「ガッフ!」
「律儀だな、オマエ…」
例の白い狼が先程同様に俺の独り言に応えてくれようとしている。可愛い奴め!なーんて、俺は猫派だから別段ときめいたりはしない。所詮は獣畜生の類だし、言葉を理解出来るとはいえ大した差はないだろう程度の認識だ。
(とはいえ、飼うなりお供にするなり共生するなら色々考えなきゃだなぁ…)
「オマエ等って何なの?ただの動物ってくくりじゃないよな?」
「クゥン…」
「悪い、返答に困るよな。意思の疎通は可能でも話せるわけじゃないもんな」
(ふむ…意外と不便だな。コイツ等とも上手いことコミュニケーション取れたら楽に…いや待て、取れるハズだな。オーディンに出来ていて俺に出来ない理由はない)
グングニルを手にしたまま、手のひらを握ったり閉じたりを繰り返す。そのまま“我が身に納まれグングニル”と念じてみる。槍は消え去り、手の中から重みも存在も瞬時に無くなった。
“出ろ!グングニル”、“戻れ!”…
槍の出し入れを何度か繰り返す。上手く説明は出来ないが…槍は消えているが在るのを確かに感じる。そうだとしか説明出来ない。時空間魔法的なモノなのか、または四次元ポケット的なモノなのか。
―
分かった事はそれだけではない。馴染むのに時間が掛かるのか、力を理解出来ていないのか…それがレベルなのか、使用頻度なのかは不明だが、何にせよ能力はあるが上手く使えていない消化不良な感覚がする。
“上手く使える最適化しないとな。身に余る力…軽トラックにF1エンジンを積んだのかもしれないが、やりようはあるさ”
「いつまでも此処に居るわけにもいかない。取り敢えず元の場所まで戻るけど、お前らは適当に付いてきてくれ」
―
(それにしても…最初はスライムとかゴブリン的なさ、もっとなんてゆーの?こうあるじゃない…相応しい初級者向けの相手がさぁ。。。)
足取り重く来た道をダラダラと俺は戻っている。
(転生者の魔王級スライムだっているかもしれないわけだから一概に言えないんだけど)
それにしても…後ろ振り返り4匹が着いてきていることを目視で確認。来た時は俺1人、今は御一行様か。異世界に転がり込んで数小一時間で桃太郎状態だ。神様を倒して能力取得してお供を引き連れて…鬼退治とお供の順番が逆だったけどな。吉備団子もやってない。
(そうだなぁ、コイツ等の衣食住考えないとな…住はいいとして、食と…衣?ん~どーしたもんかねぇ)
プランが無いわけでもない。良識ある普通のプランから、人外に至る鬼畜プランまで。俺だけでは決めかねるし、今の俺では…と云う問題もある。そもそも飼うとかペット扱いが妥当なのかも腑に落ちない。
(あ~頭イテェ)
悩ましい問題だな。ペットの認識だとして追加4匹分の食費の問題。光熱費の問題。居住スペースの問題。オイ、急に生活感丸出しだな!一挙に片付けるオイシイ方法ないかな。間もなく俺が作った(壊した)林道を抜ける。
(あ~頭イテェな)
疲労感も手伝ってボーッとしながら足取りは重たいまま。ん?いつの間に?前方に代々木くんとウルスカが手を振って待っている。手を挙げて合図を送る。気付かなかったな、でも丁度良かったか。考え事に集中してたせいで彼女達のお出ましに気付かないとは…
ズキン!
その痛みの認識は唐突に襲ってきた。
ズキン!!
違うかもしれない。先刻からの頭痛はコレだったのか?なんだ、視界が霞む。熱か?ふらつく。オカシイ。。。
ス゛キ゛ン゛!
頭蓋が割れるかの様な痛みに崩れ落ちそうになるのを膝に手をついて堪えた。頭の奥に煮え立つマグマでも突っ込まれたらこんな具合になるのかもな。痛みの間隔が徐々に短く、そして大きくなって拡がっていく。
「オマエ等はここで待て…大丈夫だ。なんとかなりそうな奴が間に合った」
「ワッフ!」
「イイコだ…」
何故か本能的に識っている。
“血はマズイ”
“力を外にモラシテはマズイ”
『SELECTION:アラブルチカラヲシズメロ…』
分かってる。俺の内部で俺を壊す力、オーディンの力を押さえているだけで苦境から脱してはいない。オーディンの力は取り除けない…それをしてしまったら4匹が死に元の木阿弥だ。自壊の力はもはや脳内のみに留まらず、痛みや熱さを伴って全身に波紋の様に拡散している。鼻血を啜り胃から込み上げる血の味を無理くり喉奥に再び押し込める。鉄臭い息を空にして新鮮な空気を肺に満たして顔を上げる。
「代々木、スグ来い。ボケ!コレは遊びじゃねー!緊急事態だ!」
叫ぶと同時に膝を着き、俺はその場にしゃがみ込む―――倒れるのだけは辛うじて免れた。
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2018/12/19/Wed/12:00-