007 その殺人犯は意外にも好かれる
…
「チッ」
「チッ」
「チッ」
「チッ」
4匹をそれぞれ見渡すして舌打ちする。舌打ちなんて行儀悪い、御里が知れる。別に誇れるモノでもないし、隠す程のモノでもない。育ちの良し悪しなんてコッチ世界じゃ歯牙にも掛けないだろうが、何の関係もないこの4匹をそのままにしとくのは…
放置でいいじゃん?そう!そうなのだ。そうなんだよ!いつも思うだが、何が俺を焚き付けると云うのか…獣畜生だぞ?ペットは煩いし臭いし餌代掛かるだけ。癒してくれる!家族同然!そんな気持ち俺には微塵も分からない。
(そんな俺が一体何をしようとしているんだか?)
意思の疎通が出来るだけコイツらマシだが…感情てヤツは厄介だよな。元来俺は気分屋だ。気が乗らなきゃ何も思うトコロは無い。何が思うトコロを刺激してるんだか…苛立たしくも幾ら腕組みして思案しても答は出ない。スイッチ切ったまま処分しとけば話は終わりだったのに、下手に関わりを持ってしまったのが下げチンなんだろうな。
―――
(あ゛~、メンドクセ…面倒臭いなぁ)
苛立たしくて、腹立たしい。方法は2つある。1つは単純だ。ジジィを助ける為に回復を促すこと。だが俺はジジィを殺す、それは決定したことであり確定事項だ。スイッチを入れ、やると決めたことは必ずやり遂げる。これは無しだ!批判や後悔は後から勝手に付いてくればいい。ジジィは俺の最初の獲物として処理する。
「お前ら退け…」
ジジィの周りの4匹を退けさせる。
「…ったく、副作用は勘弁だぞ」
気が乗らない…2つ目の手段を考えると足取りが重い。尤も、対策になるか分からない予防策を練り込んでおくつもりではあるのだが。磔刑にされている死にかけのジジィに手を伸ばし、その身体に微かに触れる。
「SELECTION:オマエハオレノモノ、オレハオレノモノ」
“Open up your mind.
無限能力(EternalSkill):ALMIGHTY。
能力変換プロトコル起動。
現所有者オーディンを抹消。
新規登録者を伊礼田明人で登録。
登録完了。
開始シーケンス異常なし。
習得開始。
終了まで600秒。
…”
ジジィだったモノが光の粒子に変質し、俺に纏いつく。勘弁してくれ!鳥肌モノで正直生理的に気持ち悪い。ジジィに抱かれているわけではないのに、どうにも背筋がうすら寒い。光の粒子はそのまま俺に沁みて溶け込んでいく。脳内アナウンスに聞いたことある耳慣れない単語が聞こえた…のは捨て置き、
「オイお前ら…」
残された白銀の槍を引き抜いて、4匹に向かい直って言い放つ。
「ジジィは俺が取り込んだ。少し時間が掛かるが恐らく問題ないだろう。お前らは助かった。危機は回避されたんだ、好きに生きろ。って言ってもジジィの立場が俺になっただけか…」
キョトン顔で4匹は交互に顔を向き合わせて呆けていたが、やがて事態を理解したのか…
「ま~その~なんだ、ソコら辺は上手く共生するか、この関係が切れる方法を探す事にするから…」
俺の言葉を遮って2羽の鴉は俺の頭上を飛び回るや否や歓喜の大合唱。残りの2匹の狼は俺に飛び付くやいなや、押し倒してじゃれついての抱擁とペロペロの嵐。
「ワッフ♪」「ギャッギャッギャー♪」「ワォーン♪」「ギッギャー♪」
「止めろ落ち着け、クソっ、俺は犬が嫌いなんだよ!獣臭せーっ、やーめーろーっ!!止めろよコノヤロウ!」
獣共の歓喜の歌声と抱擁に包まれながら、俺の助けを求める声が森に反響した。
Continued on the following page…
2018/12/15/Sat/12:00-