006 その殺人犯は途方に暮れる
…殺人犯な俺だって、常識は持ち合わせている。異世界のソレではあるが。
「う~ん、殺人現場の偽装?ってゆーか隠蔽?どーすりゃいいんだ?」
埋める?燃やす?隠す?
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ま、言ってみただけ。コッチの世界の警察機関のレベルは不明だが、遺体や凶器を始末してトンズラするしか無いかな。または代々木くんにどーにかしてもらうか、またはウルスカに相談か。ブツブツと独り言を呟きながら脳内の俺ウィキペディアにアクセスしていたが、不意に状況に変化が生じた。
「お前ら、ソレどーするつもりだ?」
死体の周りに2羽の鴉と2匹の狼が何処からともかく現れ、まるで俺から守るかのように牽制していた。
「「ガルルルルルル…」」
(眷属か使い魔的な?)
狼は俺に敵意剥き出しで威嚇、鴉はジジィに向かって何かしている様に見受けられるが…
(まだ死んでないとか?蘇生魔法やアイテムか?オマケのSELECTIONでジジィは回復蘇生不能だし、紙装甲にしてある)
何にせよ、言葉が通じるか分からないが警戒しながら声を掛ける。
「無駄だ。回復は受け付けない様にしたし、さっきの戦いから分かるようにお前らが攻撃してくるなら即殺す。分かるか?俺にはその力がある」
獣は本能的に敵が自分より強いか弱いか分かる…トカ何とか。別に期待はしてない。俺に達人的な強さや、伝説的な武器防具は無いわけで、単純にジジィの後に獣4匹始末する手間が増えるだけの認識しかない。必要があれば獣であれ殺すつもりでいる。いや、つもりでいた?わけなんだが―――見慣れぬ光景を目の当たりにした。
4匹は互いに顔を見合せ、まるでコミュニケーションを取っているかのような…そんな錯覚を覚えた。暫しの逡巡が見られた後、片方の白みがかった狼が前に出て来て頭を垂れた。
「ガルッ…」
「それが総意か?言葉が理解出来るなら俺から見て左側に尾を振れ、お前の右側だ」
「パサッ」左側に尾が振られた。
「言葉が通じるか…ふむ」
動物とコミュニケーションを図るか…
「4匹共戦う意思はない、降伏と受け取っていいのか?その通りなら左側に、違うのなら右側に尾を振れ」
「パサッ」左側に尾が振られた。
「お前達はあのジジィのペットか?」
「…」反応を示さない。
「ん~、ジジィが飼い主なのか?お前達は眷属、使い魔の様なモノなのか?」
「パサッ」左側に尾が振られた。
「悪いな、この世界の知識には疎いもんでな」
獣に気を遣うなんて初めての事だし、やれやれって気分に陥る。空を仰ぎ見る。夕暮れにはまだ時間はありそうだ。
「ジジィはまだ生きているのか?」
「パサッ」左側に尾が振られた。
シブトイな、憎まれっ子は世に憚ると云うが老害は速やかに消えてくれ。
「後ろの鴉共がしていたのはなんだ?回復?蘇生?魔法の類いか?」
「パサッ」左側に尾が振られた。
「回復させる気はない…敵だしな…死ぬのを待つだけだ」
「クゥーン」悲しそうな鳴き声を上げる。
「いや、飼い主の死を厭う気持ちは分からなくもないが、お前らは降伏?したんだろ?」
「パサッ」左側に尾が振られた。YESだ。
「なら好きに生きろよ。何処にでも行っていいぞ?」
「パサッ」右側に尾が振られた。
「ん?忠誠心か?こんなジジィに物好きだな…」
「パサッ」右側に尾が振られた。NOだ。
「あ?解放されたんだぞ?お前らは自由なんだよな?」
「パサッ」右側に尾が振られた。
(分からんな…忠誠心ではない、自由ではない、何処にも行けない…)
嫌な予感が鎌首をもたげ始める。
「つまりは、お前らも死ぬのか?死を受け入れたのか?」
「ガフッ」左側に尾が振られた。
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2018/12/08/Sat/12:00-