005 いきなりハードモードかよ
(ワレ、ハバムモノナク…)
【ズブッ!グリッ!ボッ!】
(ナンジ、イヤスモノナシ)
「ゴフッ、…なっ、…んな、ヴぁカなっ!?」
刺して、捻って、引き抜いて、オマケ付き、を一息にやってのけた。傷は気管まで到達したのか、ジジィの口と首から血が洩れだし周囲を赤く染め始める。
「貴゛様…どヴ、やって、ナニ゛ボノだ…」
(ココロヲトザセ…)
驚愕と憤怒を宿した眼差しを俺に向ける相手に対し、対峙している俺は無言で唇を噛む。一撃目の具合を確かめながら後方に飛び退いて一旦距離を取る。
(浅くはないが…やはり二撃目が要る。最初に必要なのは武器だったかもな。フォークを振り回すなんてとんだお笑い草だ。それにオマケ付けたはいいけど、ホントに効いてるのかイマイチ分からねーんだよなぁ)
悔しさを滲ませながら相手の出方を伺う…分かってるよ。既に後悔してるし、調子に乗って浮かれ気味で考えなしだった。致命傷を与えられたんじゃないか?なんて甘い考えは止めだ。つまり戦況はイマイチだ…
戦術?戦闘スタイル?なんだそりゃ…素人オヤジの初手が偶々当たっただけ。しかも相手は俺を端から嘗めていて、お優しいことに先手までプレゼントしてくれて…そんなサービスまで至れり尽くせりで貰っておきながら、この始末。歯痒いがジジィの出方を伺う事しか出来ない。そう、俺には戦術も人殺しの技術もそんなものは無いのだ。
ただ…布石は打った―――失血は続いている。そうは言ってもくたばるにはまだ時間が掛かる。反対側の首か、目から脳を狙うのか…フォークでピンポイントで目を…俺にそんな技術的な事はキツイし、何より先刻までとは潮目が変わっている。一撃で終われなかった時点で、時間切れの判定勝ちを待つしか取る手立てがない。加えて、アチラの老紳士様も油断してくれてない。
(ウルスカに泣き付く訳にいかねーし、武器防具と身体能力の問題…これマスト【must】だわ)
攻撃か防御か、または魔法か逃走か。ジジィに次の行動させる前に…
急激にプレッシャーが大きく膨らむのを感じて、併せるように左手を前に突き出す。(クッソ、どーする?)まだ次の打つ手も決めきれない内に、場の空気はジジィに支配されつつある。息苦しい程のプレッシャー?威圧感なんて生易しいモノじゃない。物理的に押し潰される様なドス黒い圧力がジジィから俺に向かって放たれている。
(只の老害じゃなかった…名のある老害だったか)
突き出した掌が圧力を弱めてくれる訳でない。隙間から覗く鬼の形相が見え隠れするのがナンセンスではあるのだが、気持ち的に幾分マシではある。
俺が有利だったハズの状況は既に無い。場は一変、圧力の質も変わった。押し潰そうとしていた重厚的な力場から、肌にビリビリと刺さる殺気混じりの刺突的な鋭利な様相。緊張感が一気に高ま…高まりを見せて即座に弾ける!
(ッ!?もう少し空気読もうぜ?緊張感高まってお互いバチバチ牽制し合うトコじゃねーの?)
ジジィが一閃、俺を殺す為のナニカが唸りを上げて迫り来る。
(―――いや、お互いか。余裕が無いのはお互い様かよ…どうなんのか知らねぇぞ、クソが!こちとら生まれたての小鹿ちゃんなんだよ!)
苦しい胸の内とは裏腹に吐き出した言葉には何の感情も乗せてはいない。乗せてはいけない。
『SELECTION:オマエハオレノモノ』
突き出した左手の前でナニカがピタリと停まる。
『オマエはオレを傷付けない。オマエはオレのモノだ。オレはテキじゃない』
ナニカの内部で機能が、形質が、構造が…ナニカ自信が現在進行形で組み替えられている事を、俺は直感的に理解出来た。
『オレに従エ。オレに従いオレのテキを撃て…』
ナニカは即座に俺の命に従い、忠実に俺の想いを汲み取る。
(これが俺の能力…そして…それがオマエの銘か!)
ナニカから俺に、俺からナニカに。力の濁流が流れ込み、混ざり合い一つになって弾けた。ナニカの名と意志と力が俺に融ける。初めて熱を帯びた言葉を紡ぐ。感情を乗せて解き放つ。
「グングニル、ジジィを貫け!」
…
【ズズゥーーーーン】
眩い光と爆発音、遅れて来た強烈な爆風が森の中に吹き荒れた。後の惨状を目の当たりにして思わず、
「Wow…」
そしてスイッチを切った今へと至る訳だ。
To be continued…【MIV-004】2018/11/21/Wed/12:00-
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