003 サイコパスが来ましたよ♪
今になって初めて自分の身体の状態を知ったのか、「無い!?無い、無い、無いぃぃぃぃっ…!!!」煩い。鈍い奴だ…幸か不幸かモノは無いらしい。俺から見てもそこそこふくよかな双房の存在を見て取れる彼の肉体に、下半身に異物が付いてても対処にこま…困りはしないか。
困るのは彼であって俺に害はない。
中身が俺の知っている代々木くんであれば扱いに変わりはない。
ちょっと変態だったのが、立派な変態に格上げされるだけで済む話。
見た目が確か彼の好きなセクシー女優なのは黙っておいたのは、俺なりの優しさってやつだ。ま、後のお楽しみってことで。
自分の股間をまさぐる痴漢だか痴女が騒いでいるのを尻目に、優先度、スケジュール、開発環境…情報が少なすぎるし、開発ソフト(俺の能力)のインストールが終わっただけ、現状を再確認。
「ふむ…」
目的や仕様は不透明、設計云々の段階ではない。
「ふむ…」
人員は二人。洗い出しなんて言えるレベルなんてまだ先の話。
「ふむ!」
破綻するわなぁ。
まぁ破綻させるつもりはないのだが、女神様から情報を引き出すとしますか。気になる事が4点程あるわけだしな。
「ウルスカ、ちょっといい?」
「はい、伊礼田様」
「アキトでいい。
答えたくないなら答えなくてもいい!が、何らかの意志は示してくれ。
アレにも神の力が入ってるんだろ?
つまりアレは神ないし、その辺りに準ずるモノな訳だ。
更に、恐らく30年前の契約て事は…何か在るよな?
アレの中に…
そして今のアレの姿には意味があるんだろ?
…と当てずっぽうに推測しちゃったわけなんだが?」
アレ扱いで申し訳ないが、俺の知る代々木くんと同じ扱いにして良いものか戸惑いがある。女性扱いすべきか代々木扱いすべきか。
「あら、人にしては…人にしては意外と見ているものなのですね、アキト」
「どーでもいいさ」正鵠を射たわけでもないし、正解を得たわけでもない。事実に近い予想を並べたに過ぎない。肩を竦めて話を続けた。
「アンタの事は半分信用しているが、半分は分からねぇ」
これは正直な自分の気持ちであり、現状当たり前の事をただ並べているに過ぎない。
「同様にアンタも俺達を信用はしていない。精々自分の望む結果の可能性が少し上がれば御の字位にしか思ってない感じか?」逆の立場ならそんな処だろうと、高を括って聞いてみたが、
「そんなに卑下する必要はないわ。そうね…未知数ね。特に貴方は。二人とも未知数だけど、彼は多少なりとも計算出来る部分がある!って感じかしら。今答えられるのはそんな処よ」
(これから始まるって段階で別に高い評価なんて望んじゃいないが。)
「未知数ねぇ…」
意外言葉が返ってきて、思わず言葉が口に出ていた。
未知数ってトコが、俺的に“ちょっと”琴線を擽るポイントにだった。
(ちょっとか?)
この場合、ちょっと=かなりなニュアンスかもしれない。本来回避すべき事象ではあるのだが、俺はリスクやスリルがあるのは大歓迎で大好物な変わり者だ。
こう言った物言いだと勘違い違いされそうだから最初に弁明しておく。断っておくが俺は危険や恐怖を愉しみたいマゾヒスト的な嗜好の持ち主ではない。マネジメントして上手くやり過ごしたい、防ぎたいだけなのだ。制御して掌で転がしたい、手中に収めたい願望に近い。サディストに聞こえるって?ん~、どうかな?予想を良い意味で裏切られるのは楽しいし、悪い意味で裏切られるのなら、足りない何かがあったって事に繋がる。その何かを修正して補って、成長してく事は俺にとって“楽しいこと”に分類される。歪んでいるのかもな♪思い通りで楽しいし、思い通りにいかなくて楽しい。
話が逸れたな、戻そうか。
結果的にチート無双になるのは構わないのだが、結果に至るまでの過程では努力もするし問題解決に必要な労力は惜しまない。その一環でウルスカの力、知識、情報や協力が鍵を握る展開が起こり得ると見越してコチラ側に引き込んでおきたいと考えての行動なのだが、不確定要素も多いのも悩みの種だ。
(敵になり得る対象をどう配置する。遠ざけるか懐に取り込むか)
「俺は見返りのない取引はしない。恩には恩を、仇には仇を返す!お前さんに信用して貰えるよう精々恩を売り付けるとするさ」
「神の力は強大よ。思っている以上に…本当に強大なの!…私は必要最低限の力を与えたに過ぎないわ。貴方達がどう用いてどんな結果になるか全く読めないし、今の処は彼が唯一の光明なのよ」
「アレが?ねぇ…」
光明なんて偉く見込まれちゃったモンだね、キミ。
「二人とも気楽なものね…」
「状況も分からない。まだ作業にも取りかかってない。自分達の力も把握出来てない。これからだろ?」
「それもそうね…」
彼女から失望に彩られた溜息が今にも漏れ出しそうなタイミングに被せて、
「悲観的過ぎて先に進めないより、楽観的に挑んでみるさ。もちろん無計画じゃなく、それなりの算段は立てる。キミの計画の特効薬にも劇毒にもなれる存在なんて…面白そうだ」
本気でそう思ってるのが伝わったのか、ウルスカは驚きの表情を俺に見せた。
「そ・れ・と、俺は軽口ばかり叩いたせいかいい加減喋り疲れてしまってね…俺の意志を汲み取って代わりに喋ってくれる代弁者みたいな人物が欲しい処なんだが、そんな便利なモノに宛はあるかい?」
「呆れた…本当に呆れた人ね、貴方は」
「そんなに褒めるなよ」
「褒めてなんてないわよ」
『褒めてなんてないよな?』
今度は驚きの表情を…意外と表情豊かになってきたな、このお嬢さん。
(心を読むんだか、丸聞こえなのか知らないけど程々で頼む。
気を張るのもいいが、緩めていいぜ。
ホンの少しだけな。
歯車は回り始めたんだ…後は都度手を加えていこうぜ、共謀者さん)
「分かったわ。ちょっとだけ見直したわ、貴方の事」
「そりゃどーも」この場合の“ちょっと”は、まだ微々たるモンだな。
この微々たる信頼を増やしていければ、何かに繋がったりしますかねぇ。未来を知ってる神様が居るのなら倒す前に攻略チャートを教えてくれと是非ともお願いしたいものだね。
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“…
能力習得工程完了致しました”
脳内にアナウンスが流れ、スキル習得の終了告げられたタイミングと同期を取る。
「ウルスカ、送ってくれ!先にそっちの世界を体験してる。代々木くんに伝言を頼む」
年甲斐もなく気分が高揚してるのを少し自覚した。一方で、これはゲームじゃない。気を抜いたら命を落とす可能性がある事も念頭に入れる。
熱くなるな、冷えろ、余計な考えは削ぎ落とせ。
気持ちを無理矢理にでも俺のニュートラルに戻すように務める。
一時浮かれていた熱が急激に冷めて、頭が冴えてくる。
やるべき事は決まった、決めたのだ!
いつでもスイッチONに出来る状態。
「代々木くーん!そろそろ戻って来てくんない?先行ってるから、ウルスカとの契約まとめちゃえよ」
いつも通りで行こう。
「あと、悪いんだけどキミのスキルでこのカレー温め直してくれない?」
ヨタヨタと失意から這い上がって…まだ這い上がって来れてない代々木くんの尻を叩く意味で声を掛けたのだが、俺の様子を察したのか、引き攣った笑顔で即座に従ってくれた。
「そんな恐い顔してるか?」
「あ~、そっすね。例えるなら獣が野に放たれるライクな感じですかね…」
「酷いね、次に放たれるのは変態なのにな」
前置きが長かった…
人助けしながら魔王を倒す勇者プレイをしに行くのではない。必要であれば遍く全てを悉く排除しよう。
言い得て妙なのかもな!
思わず漏れた苦笑いは、開かれた異世界の扉の先の光と影にひっそりと溶けて消えた。
「ご指名ありがとうございます。サイコパスが来ましたよ!っと」
こうして新しい世界に食べ掛けのカレーとサラダを手にしたケダモノがお邪魔したわけだ。
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