016 クラブ開店
「さて、皆聞いてくれ!ここが俺達の拠点であり、主な生活空間になる。奥に各自の部屋も用意した。生活や寝食に必要な空間、そして様々な技術開発に必要な施設も随時拡張していく予定でいる」
1人1人と視線を交わし、グラスを掲げる。
「酒じゃなくて悪いが、ここに居るメンツが初期メンバーになる。具体的な計画はまだ無いが、必要に応じてメンバーを増やしていきたい。」
奥には50㎡~の1LDK、2K型の個人の部屋も用意した。そんなに狭くはないよな…多分。
「基本的に此処に出入りするには俺か忍、代々木くんの承認を必須とする。また店舗部分より奥は俺か忍の承認を必要とする。ここに居るメンバーは既に承認済みなわけだが、誰彼構わず連れてきて貰っては困る!この場所はこの世界にはないシロモノや秘匿すべき技術が用いられているし、俺達の目的もまた特殊だ。厳重に管理していかなきゃならないだろう…念を押すがくれぐれも頼む」
皆一様に頷く。桃園の誓いの様な…我ら生まれた日は違えども、死ぬ時は同じ年、同じ月、同じ日、同じ時を願わん!…みたいに出来たら素敵かもしれないが、俺はそこまでロマンチストにはなれそうもない。どんなに大きな力を得ようとも、身近な親しい人だけが幸せならそれでいい…俺は多くは望まない。
「固い挨拶はここまでとしよう。では代々木くん、キミの異世界転生に多くの幸があらんことを願って、乾杯!」
「「「「カンパーイ!」」」」
祝杯の歓声と共に前触れなく店内に明かりが灯された。
オイオイ…アンタ、忍さん。
どーやったのか詳しく存じ上げませんが、ちょっとやらかしてくれたんじゃないのコレ?地球の電力システムこの空間にまんま用いる事は無理だろう?魔力なの?コッチのシステムなの?マージしたの?ヤダコワイ…出来るコ過ぎでしょ!?
忍が俺を見つめながら恭しく頭を垂れるたまま“パチン”と指を鳴らす。
“ジ…ジジジ…”
いつの間に、、、ブラックライトのネオンで出来た『club-PhychoPass-』店の看板が妖しく鈍い光を放つ。
俺が女だったらこんな演出されたら濡れるわ…ククク…
“まったくご褒美をやりたい位だね♪”
自画自賛とは意味合いが異なるが、忍の働き振りに御満悦気味な俺は気持ちが楽になった。この世界での取り敢えずの足掛かりが出来たわけで、正直ホッとした。元の世界に戻ればいいだけの俺とは違って代々木くんの心が安らげる場所が必要だった。それがこうして形作れた事で1つの目的を達成出来た―――小さな第一歩ではあるけどな。
グラスの液体を口に含みゆっくりと味わって流し込む。生姜と炭酸の喉越しの余韻がやけに沁みる。
俺と忍でゲストのグラスに様々な色の液体を注いで回る。ジュース、サイダー、トニックウォーター、緑茶…束の間かもしれないが、今この時は無粋な話は無しだ。
会話中話題に華が咲く様にゲストの相手に徹する。
内容は専ら代々木くんの容姿をこれからどうするか?服装は?下着は?って話題ばかりだ。意外に盛り上がりを見せている。まぁ、嫌でも面倒な話がこの後暫くは続くだろうから、心安らげる微笑ましいネタはありがたい。
後はそうだな…
『忍、晩飯どーする?』
『どちらの世界の料理にしようか迷っているのですが・・・代々木様の心が寛げる料理にする予定です。ご本人にお伺いを立ててから考えるとします』
そうだな…料理でリラックス出来たり、少しでも彼の気分転換になればいいよな。もっとも、日本を恋しがってしまっては本末転倒なので此方の世界の料理も早急に取り込みたいのが本音である。
ついで言うと、個人的にも異世界の調理法や食材に興味あるからね!
―――
『ところでアキト、先程ご褒美を頂けるとか?』
『んぁ?あぁ…耳聡いな。聞こえてたか…俺の出来る範疇なら、まぁ…』
『でしたら今晩抱いて下さい』
鼻汁吹き出しそうになったが、何事も無かった様にポーカーフェイスを決め込む。ハードボイルド的なキャラ設定を今だけでも必死に装備決め込んだ。
『あのなぁ…出来る範疇って意味分かるよな?』
『十分“出来る”範囲内かと…ヤルヤらないは別にしまして…それとも魅力が足りませんか?』
ぐっ…このロジックはまさしく俺だわ!同族嫌悪とはよく言ったモノだ…
端から見るとこんなにも厄介なのか、俺という奴は!
『断る!』
『私とアキトは一心同体です』
『…一心ではないだろ』
何やら背筋に悪寒と熱い視線、両方を感じなくもないのだが…
『同体なのは認めるのですね?つまり私と体を重てもソロプレイと同じなのです。即ちオナ…』
『止めろ!それ以上言うな…しかも真顔でコッチ見んな』
こっちが恥ずかしい。創ったのを少し後悔した…少なくとも下ネタ系の情報は制限すべきだったなぁ。
あぁ~っ!もう、なんなんだよ!なんでこんなんで困難に…
あぁ、サムイ…なんか頭痛が痛い…
『断固、断る!』
俺は逃げた。
「代々木くん、晩飯何食べたい?」
俺は逃げられなかった。
『ついでに申し上げますと私とアキトは同室です』
何でそんな積極的なん?
しかもなんで男気溢れてんの?
何の罰ゲーム?
脳内に言葉で直接ダメージ食らった気分…
どうにか回避する方法を、負けない方法をシミュレーションしながら眉間に深いシワを寄せて、俺は退路を断たれた気分で天を仰いだ。
何か…涙出そう…
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2019/02/02/Sat/12:00-




