011 閑話①
caceウルスカ
生真面目で固そうな感じね。若干私を見る目が気になりもしますが…ん~この外見は…読み取って形成したまではいいけど、この容姿はこの先苦労する予感がするかもしれないわね。
初めて異界より呼び寄せた人物。代々木和也氏との初コンタクトを経た私ウルスカ。私の大願“神殺し”を実現させる為あらゆる犠牲を払うと心に決めていた―――のですが、何かしら…おっとりしていて平和そうな彼を見ると毒気を抜かれてしまいそうになります。
ですが、この時をどれだけ心待ちにし、苦痛に耐えてきた事か。必ずや成し遂げてみせます。ですからどうか、どうかいま少しお待ち下さいませ。。。
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ウブそうで女性の扱いに慣れている様子は伺えませんが、意外にも楽しませてくれる。「改変する力」あの様に用いるとは。確かに応用が利く…アチラ側の人間は思っていたよりも知能が高いようです。彼が特別なのか、総じて異世界の人間全般が高い知能を有しているのか不明ですが。文明も異なりますし、評価を見直す必要があるのやもしれません。どの程度鍛えれば我々や奴等とやり合える戦力となるのか…ともあれ初期の計画より幾分早まるでしょう、嬉しい誤算です。
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がさつで野蛮そうな、そして時折見せる狂気を秘めた瞳が印象的…
私の伊礼田明人の第一印象はそんな感じでした。まぁ、代々木様のオマケの認識ですし、“彼に眠る力”が本命。邪魔にさえならなければ路傍の石程度、いくら増えた処で問題にはならないわ。それよりも…計画の前倒しは最早必然、代々木様の覚醒を促すためにも早急に“彼女”を見つけなければ…ですが、これだけ長期に渡って手掛かりすら掴ませないなんて一体何処に潜んでいるのかしら。。。
―――
読めないわね、カレ。只の人間のハズ、それなのに。逆に私を見透かそうとしているの!?面白くはないけれど、知れた処で困りはしないわ。既に歯車は回り始めているし、結末さえ変わらなければ途中の過程に興味はないもの。
二人を上手く使って戦力を削がなければ。代々木様が潜入と攻撃、アキトが防御と支援といった具合かしら?
なんにせよ、予言は早める、変えてみせる。私がやってみせる!私は、私の望む結末を手に入れてみせる!!
―――
槍を手にした私は言葉が出てこない。何故なら“コレ”は…
アキトが出した!?
周りのこの惨状…
戦った、、、
戦って…
勝利したというの!?
待って、つい今し方よ?
冗談でしょう…
遭遇する?
あり得ないわ!
いえ理解が追い付かない。
さりとて結果をこうもまざまざと見せられてしまっては―――どれだけ否定の言葉を並べても、意味を成さない。
“グングニル”とアキトを取り囲む“彼の人の眷属”。神の頂きの一画が落ちた…たった数時間も掛からずにだ。
忘れていた感情が、いいえ違うわね。水を与えられず日にも当たらずに、枯れ果ててしまっていた私の中のとある感情。
「…ふふっ、ウフフフフっ…何てこと、何てことなの!!」
込み上げる笑いを隠そうにも隠せない事態になるだなんて。ダメよ、駄目なのに、、、抑えきれないわ。いつ振りであるかも忘れてしまった程、十年?百年?遠い昔に亡くしたとある感情。
「ラグナロクは起こるわ。えぇ、遠くない未来。きっと間もなくよ!」
愉しい、なんて愉しませてくれるのかしら!言葉が、表情が、感情が身体が。私の心を掻き乱して、私に今一度生の彩りを与えてくれるだなんて。私は、わたしは、ワタシは!今こんなにも愉しいわ!
…
……
“私が興奮するだなんて。本当に笑ってしまうわよね。きっと皆にも笑われてしまう…”
自虐的な笑みが馴染ん久しい私の顔が久方ぶりに使った筋肉で引きつるだなんて。恥ずかしい…いえ、そう思う気持ちですら新鮮―――
“そうね。死んだように生きてきたもの…長い間”
「ウルスカー、置いてくぞ~。早く来いよ!」
“本当に呆れしまう方々…何をなさったのか理解されているのでしょうか…不安になりますわ”
お二方を見つめる私の表情は気持ちとは裏腹に笑みが零れている。
一から十まで独りで取り仕切り、長い時間を掛けて綿密に準備していた私の計画…それが今アッサリと瓦解、破壊されてしまった。怒るよりも正直呆れてしまう。全く、何てことをしでかしてくれたのかしら。計画は台無しにされてしまった!そして予想に反して大幅に縮小されてしまったのだ…見通しが甘かったのも事実ですが、こんなにもあっさりと神を討ち取るなど…まったく調子が狂う。誰がこんな展開を予想出来たというのか…今の状況に至る奇跡の様な過程を省みると頭がクラクラする。
“フゥ~…”
真面目に考えるのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。二人には無理に隠す必要もないのかもしれない…下手に不興を買うよりも良好な関係を構築しつつ、信頼を得る方が良策…なのかも。
“仲間…”とは一概に言い難く、同じ目的を持つ同志かしら?自問自答しながら笑ってしまう。仲間?同志?私がそんな言葉を口にする日が来ようとは…誰にも頼って来なかった…頼れなかったし、頼る宛も無かった。仲間を裏切り欺く為に孤独を選び孤高で在ろうと決断したあの日より幾星霜…私はこんなにも弱くなってしまったのかしら。
どこまでを“同じ目的”と言えるか曖昧ではありますが、少なくとも戦力の面では大きな味方を得たわ。せっかくの計画も一から練り直しだわ。癪ではありますが、不思議と悔しい気持ちも起こらない。そうね、私も彼等の信頼に応えなくてはなりません。
「…はい、お待ちを~、今行きますわー…」
“信じてもいいのかもしれない…私はもう一人ではない”
心に根付いていた負の感情が、新しい風に浚われて消えつつある。
私は2つの風を追い掛けて後に続いた。
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2019/01/05/Sat/12:00-




