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第5話

 上空で人面魚じんめんぎょが待っていた。グリフィンが人面魚と同じ高度まで達する。ゆっくりと前進を始めた。まるで、空中を泳いでいるかのようだ。はるか下に草原が広がっている。

「あとの操作は地上と変わらないよ」

 タカの言うように、空中での操作はさきほどまでと変わらなかった。しかし、雲一つない抜けるような青空と、緑の絨毯じゅうたんのような草原の間を飛ぶことは格別だった。力強く羽ばたくグリフォンと、空を泳ぐような人面魚。周りから見たらかなり奇妙な組み合わせかもしれないが。

 視界の左側に動く何かがあった。まだ遠すぎて、点にしか見えない。だが、確かにその点は存在していた。

 グリフィンと人面魚は丘の洞窟の出口を背にして、真っ直ぐ進んだ。丘の上から見えていた川は、かなりの川幅を持っていた。上空からでもその巨大さが見てとることができる。川の上までやってくると、川に沿って飛んでいく。

「ねえ、ひょっとしてこの状態でも敵とか出るの?」

「出るよ。敵っていうか、モンスターね。それにこのゲームはモンスターだけじゃなく、プレイヤー同士でも戦闘になるからね」

「プレイヤー同士でも?……でも、プレイヤー同士で戦っても意味ないでしょ?経験値もらえるの?」

「経験値はもらえないけど、プレイヤーが殺されるとランダムでアイテムを一つ落とすんだよ。レアアイテムだろうと関係なくね。モンスターと戦って金を貯めてアイテムを買うよりも、プレイヤーをおそってレアアイテムを手に入れた方が効率がいいからさ。それと、お金も少しだけど落とすんだ。だから、プレイヤーを狙って攻撃してくることがあるんだ。PK(プレイヤーキラー)って言うんだけど」

「PKか……。まあ、僕は初心者だから関係ないね。レアアイテム持ってないし」

 視界の左側で動いていた点が、徐々に近付いていた。距離がありすぎて、まだその点がなんなのかは分からなかった。

初心者狩しょしんしゃがりがあるぐらいだし、狙われないとは限らないぞ。」

「初心者狩りって、やる意味があるわけ?」

「さあね。自分の力を誇示こじしたいんじゃないのかな?」

 先ほどの点がより近づいていた。もう、点とは呼べなかった。それはドラゴンのようだった。巨大なトカゲで背中に翼があることぐらいは認識にんしきできる。そして、ドラゴンは一体ではなかった。三体のドラゴンが固まって飛行している。しかし、いまだモンスターなのか、はたまたプレイヤーなのかはわからない。

「それからさ、キョウの初心者マークが取れるまではチームを組めないからね」

「そうなの?でも、一緒に行動できるんでしょ?」

「一緒に行動できるけど、ゲーム上はチームとして認識されないんだよ。チームを組むと、アイテムの交換やメンバーしか聞こえないような会話設定とかもできるんだけど。だから、この会話も近くにいる人には聞こえるからね」

 そこまでタカが説明を終えたところで、終わりがないと思われた草原に、変化が現れた。草原の緑とは違う色合いの塊が見えている。おそらくあれが街だろう。まだ距離があるため、今は灰色の塊にしか見えなかった。

 三体のドラゴンとの距離も縮まっていた。僕らから街までの距離と比べて半分ぐらいだ。ドラゴンも僕らと同様に、あの街へ向かっているのだろうか。背中には人間が乗っているのが確認できた。

「前に灰色のが見えてきたでしょ、あれが街だよ。しばらくはあの街が拠点になるかな」

「うん、うん。ところでさ、モンスターとプレイヤーってどこで見分けるの?」

「背中に人が乗っているのは、だいたいプレイヤーかな。頭の上に名前が出てるんだけど、その文字が紫だとモンスターだよ」

 話しながらも、グリフィンと人面魚は街との距離を縮めていた。もう、街の外観がいかんが分かる距離だ。灰色の塊に見えていたのは、街を形作かたちづくっているいくつかの建物の壁と、石畳いしだだみのせいらしい。建物の屋根は赤系の色が多いようだ。

 ドラゴンたちもさらに近づいていた。すでにグリフィンと目と鼻の先にドラゴンたちが飛行している。この距離では会話も聞こえてしまうかもしれない。

 と、僕は急にそのドラゴンたちに違和感を覚えた。街へ向かっているにしては、方角がおかしい。まっすぐ僕らへ向かってきているように感じる。

 突然、一体のドラゴンが咆哮ほうこうとともに、炎を吐き出した。画面には『ファイアブレス』と表示される。これがこの技の名前のようだ。炎はまっすぐ伸び、人面魚の横っ腹を焦がした。人面魚が耳障りな声を上げた。

「うおっ!」

 思わず、タカも奇声を上げる。人面魚の体の上に、赤い数字が浮かび上がって消えた。この数値が人面魚のダメージってことらしい。人面魚は今の攻撃で百以上のダメージを受けたことになる。

「タカ、左のドラゴンが――」

 僕の声はそこまでだった。全てを理解したタカが、ドラコンに向かって啖呵たんかを切る。

「なにするんだよ!焼き魚になったら、どうするんだ!」

 焼き魚って。しかし、僕が突っ込むよりも早く、ドラゴンのプレイヤーが口を開く。

「ドラゴンじゃないから、そうなるんだよ」

 ドラゴンじゃないから?神獣しんじゅうを選ぶのは、自由だ。ドラゴンを選ばなくてはいけない決まりはない。

「ドラゴン以外の神獣には、死んでもらう」

 先ほどとは別の声だ。声だけでは、どのドラゴンのプレイヤーが話しているのかわからない。

 三体のドラゴンは、同じ種類だ。体の色や角、たてがみともに同じだった。違うのは、ドラゴンの背中に乗っている人間だけだった。試練の洞窟で僕が相棒として選ぶことができたドラゴンと同じようだ。しかし、みな肩にピンクで『KQ』と描かれている。

「キョウ、逃げるぞ!」

 タカがそう叫ぶと、人面魚は再び街へと向かう。グリフィンもそれにならった。

「逃がすかっ!」

 そして、後から三体のドラゴンが続く。グリフィンと人面魚のすぐ後ろをドラゴンが追いかけている。グリフィンにドラゴンの息が掛かっているかもしれない。生きている心地がしないとは、こういう感じなのだろう。

「これって、もしかして?」

 僕の問いかけに、タカが答える。

「そう、PK(プレイヤーキラー)だ。そして、おそらく初心者狩りだ!」

 僕の頭の中で、お寺の鐘をいたかのようだった。いまだ音の余韻よいんで、頭がくらくらする。ショックだった。相棒グリフィンを手に入れて、記念すべき最初の戦闘が初心者狩りとは。

「初心者狩りぃ?ドラゴン以外を狩ってるんだ!」

 また新しい声がした。三体目のドラゴンのプレイヤーだろう。声がした直後、一体のドラゴンが炎を吐き出した。人面魚が炎に包まれる。

 間髪かんぱついれず、もう一体のドラゴンも人面魚に向かって炎を吐き出した。炎で人面魚の姿が消える。このままいなくなってしまったら、グリフィンは死を待つだけだ。

 炎が止むと、幸いなことに人面魚はまだそこに存在していた。

「大丈夫?」

「まだ、なんとかな」

 人面魚の頭上に『いやしの水』と表示されたかと思うと、上空から大きなしずくが落ちてきた。雫は人面魚を包み込む。そして、雫がはじけると、人面魚の体が光り輝いた。そして、光は人面魚の体の中へと吸い込まれていくかのように消えていった。直後、人面魚の上に白い数字が、浮かんで消えた。

「この魚、回復系のスキルを持ってやがるぞ」

「面倒だな。先にグリフォンをるか」

 ドラゴンのプレイヤーたちの相談が聞こえた。グリフィンを攻撃されたら、一発でやられてしまうことは目に見えている。どうすれば、この状況を打開できるのだろうか。

「タカ、攻撃しよう!」

「無理だって!レベル一じゃ、太刀打ちできっこないよ」

 タカの言葉が終わる前に、グリフィンはドラゴンの方へと向きを変えていた。そのまま、ドラゴンへ接近すると、鋭い爪を振り下ろした。ドラゴンの体の上に、一と赤い数字が現れる。

「おいおいっ、一ポイントしかダメージを与えられないの」

 その言葉を吐いたプレイヤーの操るドラゴンだろうか。グリフィンに向かって、炎を吐き出した。グリフィンには辛うじて当たらなかった。

「なにミスってんだよ!」

 言いながら、一体のドラゴンがグリフィンに狙いを定める。と、人面魚の頭上に『魚雷ぎょらい』の文字が現れた。その直後、人面魚がドラゴンに向かって突進した。ドラゴンの横っ腹に、人面魚が体当たり――頭突きにも見えなくはないが――をする。ドラゴンの体の上に、二と赤い数字が現れた。

「えっ?二しかダメージ与えられないの?なんで、レベル一のグリフォンと変わらないんだよ」

「だから、無理だって言ったんだよ!」

 タカが怒ったように答えた。

「やっぱり俺たちのように、神獣はドラゴンにするべきだったな」

 いつの間にか、人面魚とグリフィンの周りをドラゴンが囲むような形になっていた。もう、逃げ場もなくなってしまった。後は、やられるのをじっと待つだけだ。

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